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星英雄:アメリカに頼らない安全保障の時代がやってきた

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謹賀新年

元旦恒例、多摩丘陵の一角を散歩した。はじめは新鮮な冷気を、やがて温暖化の影響かと思うほどの暖かさを感じつつ、新年が始まった。

今年は、辺野古新基地建設反対の輪を広げるとともに核兵器禁廃絶へと向かう年にしたい。核兵器禁止条約を批准せよと、安倍政権に迫りたい。そして、アメリカに頼らない、自主的なアジアの平和秩序の構築へと一歩踏み出す年にしたい。

昨年8月15日の敗戦の日、靖国神社と千鳥ケ淵戦没者墓苑を訪れ、その後、新宿のとある食堂で腹ごしらえをした。その食堂で働いていた、70歳前後の女性がこういったのだ。「私は長崎出身で、6日の広島も9日の長崎もテレビ中継をじっと見ていました。安倍首相は核兵器禁止条約に背をむけたままでした。悔しい」

広島、長崎の2人の市長はそれぞれの「平和宣言」でともに、核兵器禁止条約への署名、批准を日本政府に求めた。しかし、その場にいた安倍首相は被爆国日本の首相でありながらそれを拒否したのだ。

核兵器禁止条約は核兵器の開発、使用を禁止する。すでに34カ国が批准し、発効まであと16カ国の批准に迫っている。核兵器禁止条約に署名している国は80カ国あり、効力を発揮するのは時間の問題ともいえる。

核兵器なき世界の実現は「国家および集団的な安全保障の利益にかなう最高次元での地球規模の公共の利益である」と核兵器禁止条約はうたっている。「核兵器は必要悪でなく絶対悪だ」と、広島の被爆者サーロー節子さんは言う。

生物・化学兵器禁止条約は日本も批准し発効しているのに、なぜ核兵器禁止条約に日本政府は背をむけるのか。

安倍政権がアメリカの核兵器にしがみついているからだ。安倍政権が定めた「国家安全保障戦略」は日本政府の外交・防衛政策の基本とされるが、アメリカの核兵器に依存することが明記されている。安倍首相に近い自衛隊トップの統合幕僚長だった人物が公然と、アメリカに核兵器を使ってくれと求めている。これが安倍政権だ。日米安保条約を柱とする日米安保体制は核安保体制なのだ。

昨年7月の参院選で、各兵禁止条約を国民に約束したのが、共産党、社民党だ。共産党は参院選公約で、政府に核兵器禁止条約の署名を求めてもいる。共産党が主張する立憲民主党などとの「連合政権」は核兵器禁止条約にどう取り組むのか、問われることになる。

アメリカの「力」の低下が進行している。
年の瀬に、自民党安保族の有力衆議院議員を取材した。「アメリカのリーダーシップが損なわれている」と嘆くこと、しきりだった。

アメリカは第二次世界大戦後、常に戦争してきた唯一の国である。朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガニスタンへの侵攻、イラク戦争、イスラム国掃討等々。戦争は、巨大な戦費の支出を伴ったが、アメリカの軍事力による「平和」は、パックスアメリカーナといわれ、称賛されてもきた。

しかし今、他国への軍事介入に慎重になり、紛争・戦争から距離を置きつつある。シリアからの撤退は、その象徴だ。

アメリカの「力」の低下は、驚くべき対日要求となって表れてもいる。昨年6月、トランプ大統領が「日米安保条約は不平等だ」といったことを皮切りに、アメリカは日本に米軍駐留費の5倍増を求めるなどしてきた。このことに日本の政治・社会が無反応なことにも驚かされた。

負担増は、NATO(北大西洋条約機構)、韓国にも要求している。NATOは反発し、韓国では米韓交渉が難航し、駐留米軍の一部撤退も取りざたされいる。

安倍首相に言ってあるので日本がアメリカを助けてくれる──。昨年12月、トランプ大統領はロンドンでの北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の際の記者会見でこう発言した。

アメリカを利する不平等条約の日米貿易協定を安倍政権は結んだ。

米国製兵器の爆買いが進行している。1例がF35ステルス戦闘機だ。日本政府は42機導入の予定を変更して105機の追加調達を決めた。購入・維持費で7兆円近くかかるという。

トランプ大統領の不満表明にもかかわらず、日本はすでに世界で突出した米軍経費を負担している。「思いやり予算」だけでも2000憶円規模だ。その「思いやり予算」も、アメリカの不満、対日要求から始まった。これ以上の負担増要求を正当化する理屈付けは容易でなく、安倍政権も苦慮しているという。

安倍政権は鹿児島県・馬毛島を買い取って米軍の演習基地にする。沖縄の辺野古には、沖縄県の試算でも2兆5500憶円の巨額の税金を投入して新基地を建設し、アメリカに提供するつもりだ。

いったい、安倍政権は日本国民の政府なのか。

日本の日米同盟強化論者は実は、アメリカの「力」の低下、アジアから米軍が退くことを強く恐れている。2015年に安倍政権が強行・成立させた憲法違反の「安保法制」は、アメリカが退くことへの不安からだった。

日本の安全保障政策に関与する自民党の安保族には、日米安保条約が規定するように「アメリカが日本を守ってくれる」と思う国会議員は1人もいないといっていい。「アメリカが日本のために、アメリカの若者の血を流すはずがない」という見方で一致する。

それなのになお、在日米軍基地はそのままに、集団的自衛権の全面行使など、日米軍事同盟の双務化を図ることでアメリカの要求にこたえようとするのが日米同盟強化の実態だ。

アメリカの変化にこそ注目すべきだと思う。戦争から距離を置く動き、そして日本、韓国、NATOへの負担増要求などは、「平和」「安全」などを維持してきたとされるアメリカの「力の低下」の現れにほかならない。

オバマ前大統領が「アメリカは世界の警察官ではない」と言ったのは2013年だった。「アメリカファースト」を掲げるトランプ大統領は彼自身の特異性で語られがちだが、彼もまた「アメリカは世界の警察官ではない」という考えの持ち主だ。パックス・アメリカーナの終焉がアメリカで語られはじめたのは10年以上も前のことになる。

アメリカ国民に次第に浸透する厭戦感情が、背景にはある。ベトナム戦争の敗北、アフガニスタンなど「対テロ戦争」のような「終わりなき戦争」にアメリカ国民は疲弊している。

日本の米軍基地なくしてアメリカが世界の警察官として振る舞うことはできなかった。朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガンやイラクへの出撃もそうだった。そのアメリカに、主権者として日本国民はどう向き合うのか。

「国家の安全保障」から「人間の安全保障」への変化が世界の趨勢だ。アメリカに依存せずに、日本・アジアの安全保障、平和の秩序を構想できる初めての時代がやってきたと思う。

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