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星英雄:名護市議選は再編交付金をめぐる攻防 辺野古新基地を造らせないために

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沖縄県知事選の前哨戦といわれる名護市議会議員選挙は9月9日投開票。辺野古新基地建設反対の野党が引き続き過半数を制することができるのか、が最大の争点です。2月に辺野古新基地建設推進の渡具知市長が誕生したにもかかわらず新基地建設が市長の意のままにならないのは、辺野古新基地建設反対の野党が過半数を制していたからです。一方、渡具知市長と与党は、辺野古新基地建設を受け入れる見返りの再編交付金を市政の中心に据え、新基地建設容認を鮮明にし始めました。

市長と与党の辺野古新基地建設推進派は、辺野古新基地建設と引き替えの再編交付金を自賛しています。市議選対策の「内部資料」というチラシには、「学校給食費の無料化(今年9月スタート)」「保育所の保育料無償化(今年9月スタート)」など、再編交付金を施策の財源とすることを自慢し、「とぐち市長と共に輝く名護市へ!」と書かれています。裏面は公明党2人を含む与党候補17人の顔と名前がズラリ。

狙いは明らかです。新基地受け入れの再編交付金を市民に浸透させ、新基地建設反対の野党候補を「学校給食費などの無料化に反対した野党」と描き出し、野党を過半数割れに追い込むことです。そうすれば、新基地建設推進の渡具知市長の思うがままの市議会が実現するからです。

問題のポイントは再編交付金です。

新基地建設反対の野党議員たちは7月2日の定例市議会に、市長の補正予算案に対する修正案を提出しました。ひも付きの再編交付金に頼らない、市の財政調整基金を財源とする学校給食費や保育料の無料化策です。市議会は野党の修正案を賛成多数で可決しました。

ところが渡具知市長は驚くべき行動に出ました。再議権の行使という「禁じ手」を強行したのです。再議権の行使により、いったんは議会が可決した野党案にもかかわらず、出席議員の3分の2の賛成が必要となりました。そのため、可決できませんでした。渡具知市長と与党は、議会を延長した7月13日の本会議でも、再議権を行使し、1度は可決した野党のもう1つの修正案を葬ったのです。

再議権行使は議会の正当な議決を市長が一方的に葬り去ることができるようになっており、いわば禁じ手の手法です。全国町村議会議長会は「公聴会を開催するなど客観的基準を採用する制度に改めるべきである」、全国都道府県議会議長会は「見直しが必用」と、再議権行使には強い批判があるのです。

それなのに、渡具知市長は1つの定例会で2度も、再議権を強行しました。これを許せば、市政に対する議会のチェック機能は働かなくなり、議会を有名無実化する危険があるのです。翼賛議会の出現です。

問題はまだあります。

実は野党の提案は、かつては渡具知市長自身も要求していたのと同じ内容です。渡具知市長が市議会議員だった昨年3月14日、学校給食の無料化についてこう質問しています。「財政調整基金に平均30億円近く確保されている中、その財源を子育て世代の親の負担軽減に活用すべきだ」。この事実は、市議会の議事録にはっきりと記録されています。

禁じ手を乱用し、かつては認めていた財政調整基金の活用を否定する市長と与党の市議会での対応。これはどういうことでしょうか。なんとしても、再編交付金を名護市の施策の財源にし、新基地建設に道を開こうとするものにほかなりません。

再編交付金に関しては、ぼろがでないように松田健司・地域政策部長がほとんど答弁しています。松田部長は、安倍政権・総務省から名護市に送り込まれた官僚です。渡具知市長が当選直後の2月13日、菅官房長官に「優秀な人材を複数名護市に派遣してほしい」と文書で要請。それに安倍政権がこたえました。

松田部長は「現住所は名護市でも、本籍は安倍政権」と言われています。再編交付金というカネの力を利用して新基地建設を強行するのが安倍政権。安倍政権にコントロールされている渡具知市政なのです。

はっきりさせなければならないのは、辺野古新基地を受け入れる見返りに交付されるのが再編交付金、という事実です。再編交付金は、米軍再編特措法という法律に基づいて自治体に支給されます。普天間基地の移設(辺野古新基地建設)という米軍再編により、生活環境が悪化することへの、いわば補償なのです。

小野寺防衛大臣は2月、国会の予算委員会でこう答弁しています。「再編交付金は、再編特措法の規定に基づき、駐留軍等の再編による住民の生活の安定に及ぼす影響の増加の程度等を考慮」して交付する──と。

再編交付金を受け取りながら新基地建設について「容認でも反対でもない」というのはウソなのです。渡具知市長は新基地建設を容認した過去の市長とくらべても悪質といえるでしょう。たとえば、岸本建男市長は15年の使用期限など7つの条件をつけました。渡具知市長とその与党は、政府に条件をつけるどころか、安倍政権いいなりです。「県知事選が終わるまでは、本音を明かさない」のが、市長と与党のやり方です。

「基地は沖縄経済発展の最大の阻害要因」として、県民に広く知られるようになりました。那覇市の新都心や北谷町のハンビーなど基地返還後の目覚ましい経済発展はその実例です。名護市でも、米軍の雇用はわずか260人ですが、キャンプ・シュワブの返還で経済効果は年間572億円、3万2775人の雇用を生み出すと試算されています。

ごく最近、流弾事件が発生しました。米軍の実弾演習によるものと、多くの市民は受け止めています。「高さ制限」の問題でも、辺野古新基地は住民の安全を脅かすことが明らかになっています。危険極まりないオスプレイは、100機体制になるのです。

戦後70年余を経た今日、1兆円ともそれ以上ともいわれる巨額の税金を注ぎ込んで、住民の命とくらし、人間の尊厳を脅かす米軍基地をつくる必要性はどこにもないと思います。

再編交付金と辺野古新基地建設について考える、そんな機会の1つが、市議会議員選挙ではないでしょうか。

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