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星英雄:アジアを戦場にするな 敵基地攻撃のミサイルはいらない・与那国島

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与那国(よなぐに)は国境の島である。台湾までは111キロメートルしかない。運が良ければ年に数度、台湾が見えるという。

「日本国最西端之地」の碑がある小高い丘から見下ろせば、簡素な漁港とフェリー乗り場が見える。遠くには、自衛隊基地の片鱗も見える。

「最西端之地」の碑

東に車を走らせると、島の東端には東崎(あがりざき)の美しい風景が広がる。放牧されている与那国馬もいる。

与那国島には3つの集落がある。

「最西端之地」の碑がある久部良(くぶら)、テレビドラマ「Dr.コトー診療所」のセットが残されている比川(ひがわ)、町役場のある祖納(そない)。3つの集落合わせて1700人が町を構成する。

与那国はいまも、観光の島である。

その与那国島はいま、ミサイル部隊の導入を巡って、静かに揺れている。多くの島民は表にこそ出さないが、心の中では反対と見られている。地元紙・八重山毎日新聞は「ミサイルに対する町民の拒否反応が非常に大きい」(2023年2月14日)と報じた。

レーダー施設を含む広大な自衛隊駐屯地

崎元俊男町議はこう話す。「自衛隊誘致に賛成した住民の方々も、日米合同訓練の頃から急速に軍事化が強まってきて、ちょっと話が違うと危惧している」

すでに、「島を出たい」と漏らす島民もいる。

自衛隊基地を誘致した外間守吉前町長もミサイル部隊の配備には反対だ。

「(自衛隊)誘致が正しいかは後の歴史が決める」とまで言ってのけた前町長がいま、ミサイル部隊の配備に反対する。ミサイル部隊が島民にどれほど否定的影響をもたらすのかを示しているではないか。

外間前町長はこうも言う。「有無を言わさないやり方で島を『要塞(ようさい)化』するのはおかしい」(朝日新聞3月17日)

糸数健一現町長の傍若無人のやり方には反発が強い。

糸数町長は当選後いち早く右翼雑誌『日本の息吹』に「国境の島の防衛体制を盤石にするためにも自衛隊に常駐してもらわなければならない」(2021年10月号)と発言。

「国家が判断するなら、邪魔だてしない」と町議会で表明もした。

また、町民に隠れて与那国空港の滑走路拡張などを萩生田自民党政調会長と高市内閣府特命担当大臣に要請していたことが発覚した。町民に問うこともなく、ミサイル部隊の配備を進めている。

嵩西茂則漁業協同組合長はこう批判する。「いまの町長は国のいいなりになっている」「首長は島の代表として町民、議会の声をまとめて国に反対すべきだ」

テレビドラマ「Dr.コトー診療所」のロケ跡

高校もなく、それが人口減少の要因の1つとなっている与那国は自立を模索してきた。その現われが、2005年に策定された「与那国自立ビジョン」である。

「与那国自立ビジョン」にはこんな1節がある。「花蓮市をはじめとする台湾など、近隣・東アジア地域と一層の友好・交流を推進する」。「日本国民としての平穏な暮らしを実現しながら、平和な国境と近隣諸国との友好関係に寄与する『国境の島守』として生きることを誓う」。花蓮市は、与那国町の姉妹都市だ。

「自立ビジョン」策定の中心人物だった田里千代基町議は台湾との交流での経済効果を指摘する。「台湾は東京都の約2倍の人口がある。マーケットはあるのに、交通はない、台湾と自由に往来できる交通をつくって繁栄しようというのが『自立ビジョン』の狙いの1つ」と話す。

しかし岸田政権は、与那国の自立を支えるどころか島民の生活を破壊する敵基地攻撃能力の保有を打ち出したのだ、

「ミサイル部隊に反対」の声が表面化しないのには、理由があるという。

駐屯地、宿舎等の建設に巨額の税金が投入される。1世帯1億8500万円の宿舎もあるというから驚きだ。その仕事が回ってくるかどうか、自衛隊基地に賛成か反対かで決まるという。

島民の1人が声をひそめて言う。「小さな島で反対を言えば圧力がかかる。仕事が回ってこない。身内、親戚の言い争いもある」。自衛隊誘致の場合がそうだったと言う。

「ミサイル部隊が来たら終わりだ。シェルターなんて役に立たない」「島の環境を良くし、子どもたちが楽しく遊べるように行政を変えてほしい」

美しい東崎

自衛隊の駐屯地ができてから与那国島の様相が変わったと、島民は言う。自衛隊員160人、その家族を含めれば250人、人口の15%を占める。選挙でさえそのうち、自衛隊の意向で決まるようになるのではないかと、島民は危惧している。

自衛隊に合わせるように、町政も変わっていった。町役場主導のバスの運行もその1例だ。

観光客を運んで来る飛行機やフェリーの時刻に合わないばかりか、バス停もフェリーの前からずれている。観光客が荷物を持って移動しなければならない。それとは逆に、自衛隊駐屯地の入口にバス停が設置されもした。

自衛隊に合わせていくのが与那国町政となっている。

「島民の要求は無視するのに、自衛隊の言うことはきく」という島民の与那国町政にたいする不満と批判は強い。

敵基地攻撃は国際法違反の先制攻撃になる。つまり、日本国民が戦争を仕掛けることになる。70代の男性は「我々は加害者になる」と言った。「アジアを戦場にするな、アジアの国際連帯が必要だ」と続けた。

与那国町は「台湾有事」を想定して「避難基金」を創設した。島の外に避難した人の生活支援を想定している。

島民の中には、「島民がいなくなるのを待っているのではないか」と見る者もいる。与那国島はアジア・太平洋戦争の時代、「不沈空母」に例えられたことを想起させる。

アメリカを離れて日本の自衛隊政策はない。

アメリカは2007年に与那国島を視察した。田里町議は「与那国の自衛隊問題はすべてここから始まった」と指摘する。この見方は、与那国ではかなり共有されている。

祖納の集落

与那国は小さいが、自然が豊かで美しい島だ。与那国島の住民はこの島を愛している。

与那国に生まれ育ち宿を経営する狩野史江さんはこう言う。「自衛隊も、ミサイルもこの島にはいらない。私は与那国島を離れたくない。いつまでも、穏やかに暮らせる観光の島であり続けてほしい」

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