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星英雄:広島と長崎が問う岸田首相の核抑止力

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8月6日は広島の、8月9日は長崎の原爆記念日だった。5月の「G7広島サミット」で、日本の岸田首相らが肯定した「核抑止力」を、広島と長崎の2人の市長の「平和宣言」が真っ向から否定して大きな波紋を広げている。

松井一実・広島市長はこう言った。「世界中の指導者は、核抑止論は破綻しているということを直視し、私たちを厳しい現実から理想へと導くための具体的な取り組みを早急に始める必要があるのではないでしょうか」

被爆2世の鈴木史朗・長崎市長は平和宣言でこう主張した。「核抑止に依存していては、核兵器のない世界を実現することはできない。私たちの安全を本当に守るためには、地球上から核兵器をなくすしかない」

「G7広島サミット」が採択した「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン 」は「核抑止力を賛美してこう言う。「核兵器は防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、並びに戦争及び威圧を防止すべきとの理解に基づいている」。被爆地広島からの核兵器使用宣言に他ならない。

核抑止力とは、どういうものか。

自民党の麻生副総裁は8日の台湾での講演でこう言った。「(防衛力は)台湾海峡の安定のために使う明確な意思を相手に伝えて、それが抑止力になる」。使う意思、戦う覚悟が抑止力だ、というのだ。

核抑止力も、核兵器を行使することが前提なのだ。核兵器を行使することを前提に脅す。それが核抑止力だ。「G7広島サミット」は、「核抑止力」と称して核兵器の使用を被爆地で公然と主張したのだから、批判が起きるのも当然だ。

広島・長崎の市長の「核抑止力」否定宣言は、岸田首相の核抑止論を包囲しつつある。

普段は政権に甘いテレビや新聞も、この問題を大きくとりあげた。広島の「平和宣言」を報道した7日付け各紙の紙面を見ると、朝日新聞は1面で「核抑止論は破綻、直視するべきだ」の見出しの下、各面で詳しく報じた。毎日新聞も1面で「核抑止論は破綻した」、東京新聞も1面で「核抑止の破綻直視を」の見出しの下、広島・長崎の「平和宣言」を肯定する形で報じた。

普段は政権寄りで知られる産経新聞でさえ、3面で「核廃絶と抑止 広がる溝」と書かざるを得なかった。

長崎の式典を報じた10日付けの各紙も同様だった。たとえば、東京新聞は「原爆の日『広島ビジョン』を批判」との見出しの下、1面で報じた。

核抑止力は機能するのか。核保有国のアメリカは日本のために本当に核兵器を使用するのだろうか。

岸田政権は昨年12月の国家安全保障戦略で、アメリカの核の傘に依存することを打ち出した。日米安保条約の下、一貫してアメリカの核抑止力に依存する日本だが、それでいいのだろうか。

「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と、岸田首相は口ぐせのように言い、国民を不安にさせている。

ロシアのウクライナ侵略戦争から我々は何を学ぶのか。

アメリカが核兵器を持っていても、戦争を防ぐことはできなかった。これが厳然とした事実である。

ロシアのウクライナ侵略戦争は、ロシアが全世界を核兵器使用で威嚇して始まった。ロシアはNPT(核兵器不拡散条約)で、アメリカなどとともに核兵器保有を認められた特権国だから罪深い。アメリカは、自国に戦火が波及しないように、ロシアの反応を見ながらウクライナへの武器供与を決めているのが実態だ。

自衛隊にも、アメリカの核の傘に対する懐疑論はある。

安倍元首相に重用され、自衛隊の統合幕僚長を歴代最長務めた河野克俊・元統合幕僚長はこう証言する。
「米国が核を使ってでも日本を守るようにするには、米国にとっての日本の価値を高めないといけない」(朝日新聞2019年5月17日付)。「アメリカにとっての日本の価値を高める」とはどういうことか。より一層の対米従属国家になることが求められるだろう。

2017年に発行された柳澤協二氏ら3人の安全保障論の専門家による『新・日米安保論』(集英社新書)には、すでにこういう記述がある。

「核の使用が倫理的に厳しくなってきている状況の中で、他国に対する拡大抑止というのは、日本であれどこであれ、もう存在しないと思ったほうがいいと思います」

核兵器を使用するハードルは年々高くなっている。アメリカ国内の世論も核兵器禁に否定的な声が増えている。

加えて、今は核兵器禁止条約がある。

核兵器禁止条約は2017年、国連加盟国の圧倒的多数122カ国の賛成で国連で採択され、2021年1月に国際条約として発効した。核兵器の開発、実験、使用、使用の威嚇などを禁止している。

核兵器に固執するアメリカと日本の岸田首相。しかし、国際社会はすでに、多くの国が核兵器禁止へと動き出しているのだ。

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