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星英雄:国民の命より米軍が大事なのか、菅政権

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「沖縄はパラダイスだ」と、米兵がどんどんやってきた。新型コロナウイルス対策として日本政府は各国からの入国を禁じているにも拘わらず、米軍だけはフリーパスだ。国民の命より米軍が大事だというのか、菅政権。

沖縄の地元紙・沖縄タイムスは7月半ば、アメリカ・カリフォルニア州からやってきた米兵たちが、沖縄は自由勝手に行動できるので「パラダイス」だと言っている、と報じた。沖縄が米軍にとって「パラダイス」だとすれば、米軍は沖縄にとって何なのか。そして日本にとって何なのか。

アメリカのジョンズ・ホプキンス大学のまとめによると、アメリカの感染者数は660万人、死者数は19万5千人を超えている。新型コロナウイルスの感染大国だ。日本への入国が制限されている、事実上の入国禁止国でもある。

入国禁止は、感染者が極めて少ない国々も対象だ。たとえば、ベトナム。感染者はわずか1063人、死者35人。日本の介護施設や農業分野などで働く人々も少なくない。それなのに、米軍だけはフリーパスなのだ。ちなみに、日本は感染者7万6千人、死者1万4千人。

政府は4月1日、米国を含む49カ国・地域を、入管法に基づく入国制限対象地域に指定した。空港の検疫所で質問票に記入し、体温の測定、症状の確認などを求める。全員にPCR検査を実施し、検疫所長が指定した施設等で、結果が判明するまでの間待機させる。4月1日時点で、入国制限国は73カ国・地域にのぼる。

ところが米軍は日本の入国審査も検疫も受けずに入国できる。米軍・米兵は日米安保条約と、日米安保条約第6条に基づく日米地位協定によって特別に守られている。

日米地位協定第9条2項にはこうある。「 合衆国軍隊の構成員は、旅券及び査証に関する日本国の法令の適用から除外される。合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族は、外国人の登録及び管理に関する日本国の法令の適用から除外される。」

米軍は政府の水際対策の対象外なのである。まさに「パラダイス」だ。日本国民には「自粛」を求めても、米軍がウイルスをまき散らすのは「自由勝手」というわけだ。

米軍に最初の感染者が見つかったのは3月。米軍の人事異動の季節、7月になって感染が爆発的に拡大した。7月4日のアメリカ独立記念日前後には、沖縄のあちこちで米兵らによるパーティーが開かれ、そこには県民も参加するなど感染拡大が懸念された。

米軍嘉手納基地は3689メートルの2本の滑走路を持つ、極東最大級の米空軍基地といわれる。新型コロナに感染した米兵が検疫を受けずにここから沖縄入りした。

 

米軍基地には「警告」が貼ってある。「許可なく立ち入った者は日本国の法令により処罰される」

米兵らの多くは米軍の嘉手納空軍基地から日本に入る。新型コロナウイルスに感染していても米兵の多くは、軽症者、無症状者だ。米軍はPCR検査を実施していなかった。ほぼ全ての感染者が入院せずに基地内の隔離施設か自宅に滞在していた。北谷町では米軍が民間ホテルを隔離施設として利用。町長らの憤激を呼んだ。

キャンプ・ハンセンに出入りしていたタクシー運転手が感染した。米軍基地で働く日本人従業員は9000人の多さだ。やがて、従業員の中から感染者があらわれるようになっていく。

沖縄は160の島で構成されている。最大の島、県庁所在地の那覇市がある「本島」でさえ、1190平方キロメートルしかない。四国の15分の1もないのだ。こんな小さな島々で感染が広がれば、命の危険はいやがうえにも増す。「私たちの命は誰が守ってくれるのか」──県民は悲鳴に似た怒りの声を上げた。

沖縄県の弱腰に批判もある。それまで「米軍との信頼関係」を理由に非公表としていた感染者数を、米軍の同意を得て公表するようになった。沖縄タイムスは「県が重視したいのは、県民の命か、『米軍との信頼関係』か」と厳しく批判した。

沖縄県と基地所在27市町村でつくる沖縄県沖縄県軍用地転用促進・基地問題協議会(軍転協)は7月15日、当時の菅官房長官(沖縄基地負担軽減担当)あて「在沖米軍に係る新型コロナウイルス感染症対策について」という要請書をまとめた。

軍転協の要請書は冒頭、米軍の艦船の爆発的な広がりは「フェンス1枚を隔てて基地と隣り合わせの生活を余儀なくされている県民に大きな不安と衝撃を与えています」と訴えている。沖縄県民の命にかかわるという切実な訴えだ。

日本政府の責任で米軍に実施させることを求めている。①沖縄への人事異動の中止②クラスターが発生している普天間基地などの閉鎖③感染した米兵の基地外の行動履歴などの情報提供ーー。そして、日米地位協定を「抜本的に見直すこと」も求めている。
もちろんアメリカに対しても、駐日米国臨時代理大使を通して同様の内容を要求した。

軍転協会長でもある玉城県知事は要請書の内容を実現すべく、要請書とともに上京した。しかし菅長官は、日程上の都合を理由に、知事との面会を拒んだのだ。県民、国民の命にかかわることよりも、米軍のほうが大事だと、見せつけたのである。

その後、沖縄県の保健医療部と米海軍の公衆衛生部局の協定で、情報を共有することになったというが、米軍の発表を確信するほどの根拠はない。

「米軍は韓国や日本本土に検体を送って検査しているようだが、感染状況は基本的に米軍を信じるしかない」と県の基地対策課はいう。米軍が「アンタッチャブル」であることには変わりがないのだ。そもそも米兵の基地外居住者の実態さえ、米軍の都合で公表を拒否されている。

沖縄は、米兵によって感染症を拡大された歴史を持つ。米兵はベトナム戦争時に風疹を、朝鮮戦争時はマラリア、性感染症を広げた。沖縄にとっては米軍基地が存在するがゆえの被害である。

神奈川県横須賀市の横須賀基地、山口県岩国市の岩国基地でも米兵の感染者が見つかった。米軍基地のあるところ、沖縄と事情はあまり変わらない。

沖縄では米軍が、発がん性物質、有機フッ素化合物(PFAS)を含んだ泡消火剤が県民の飲み水である水道水を汚染した。県民の3分の1、45万人もの人々の命と健康を脅かしたことも「米軍基地・米兵の犯罪」だ。

2016年には、うるま市に住む20歳の女性が嘉手納基地の米軍属・元海兵隊員に暴行され殺された。1995年、海兵隊員2人、海軍兵1人による少女暴行事件が起きた。2017年、沖縄県東村高江の民有地で米軍普天間基地所属のCH53E大型輸送ヘリが炎上した。2004年、沖縄国際大学に海兵隊の大型ヘリが墜落。

米軍は沖縄にとって、日本にとって何なのか。県民、国民の命と人権を脅かす元凶であることが明らかだ。

菅政権は「安倍政権の継承」を自任する。辺野古新基地建設を推進することも表明している。コロナ対策でも、国民には「自粛」を求め、米軍は手厚く保護することは既定路線だ。

菅政権に対抗するには、目指すべき日本社会像を掲げる運動が必要だ。アメリカの「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)」の運動は、大きな犠牲を伴いつつ、いまやアメリカ社会を変える歴史的な運動になってきた。

世界中を震撼させているコロナ禍は、軍事力に頼る旧来型の安全保障の転換を迫っている。兵器・軍事力で人間の命を救うことはできない──というのがコロナ禍の教訓だ。

抗い闘う普通の人々が社会を変える。辺野古の闘いがそうであるように、「ブラック・ライブズ・マター」がそうであるように。

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