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星英雄:日本はアメリカ一辺倒でいいのか 岸田政権の安保政策大転換を考える

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岸田・自公政権は12月16日、安全保障3文書を閣議決定した。「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の3つだ。日本の安全保障政策の根幹とされる「国家安全保障戦略」ではアメリカの「核の傘」に依存し、相手国の領域内を直接攻撃する敵基地攻撃能力(反撃能力)を有することを明記するなど、これまでの「専守防衛」政策からの大転換を打ち出した。

日本国憲法は国民主権を定めているのに、国会も国民も無視して、岸田政権とそれを支える自民・公明の両党で決めた。

戦力の不保持を明言する日本国憲法の下で、他国を攻撃することは許されない。憲法は、国家の統治の基本を定めたものなのだ。憲法を無視しては法治国家が成り立たない。

国家安全保障戦略は軍事費の「予算水準が現在の国内総生産(GDP)の2%」にすることも盛り込んだ。

SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)が今年公表したデータでは、日本の軍事費は世界9位の規模。軍事費がGDPの2%に増大すれば、アメリカ、中国に続く世界第3位の軍事大国になる。

「防衛力整備計画」では、アメリカのトマホーク導入も明確にされた。トマホークはイラク戦争などで使われた。イラクに打ち込み、イラクを破壊した。トマホークは核弾頭も装着可能な攻撃的兵器の代表格である。

国際法違反の先制攻撃を避けるため、相手国が日本攻撃に着手したかどうかは、米軍が判断することになる。

軍事費がGDPの2%はアメリカの意向だ。今年5月、日米首脳会談で岸田首相はバイデン大統領に軍事力強化を約束した。アメリカはトランプ前政権からGDPの2%を要求していた。岸田首相は年明け1月に訪米を検討している。要は、バイデン大統領への手土産だ。アメリカに忠誠を尽くすために、国会と国民の議論を避けたのだ。

支持率低迷にあえぐ安倍亜流政権の岸田政権が、日本国民よりアメリカを大事にするという戦後最悪の構図となっている。

岸田首相は、『国民が自らの責任として」税を負担すべきだとは言っても、なぜ軍事力を強化しなければならないのかについては語らない。

「国家安全保障戦略」は、中国を「これまでにない最大の戦略的な挑戦」、北朝鮮は「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」、ロシアは「安全保障上の強い懸念」とした。ウクライナ侵略を進めるロシアよりも、中国、北朝鮮のほうが怖いという位置づけだ。

日本国民はロシアのウクライナ侵略から、日本が侵略されると連想する人が増えたといわれる。ロシアのウクライナ侵略をどう見るか。

何よりも明白な事実は、アメリカが核を保有していても、ロシアのウクライナ侵略を止められなかったことだ。核は大量破壊兵器である。しかも、非人道的な兵器だ。自国が攻められたことで核兵器を使用すれば、国際的非難が殺到する。まして同盟国とは言え、他国のためにに核兵器を使用するのは考えにくい。核兵器禁止条約も存在する。

「米国が核を使ってでも日本を守るようにするには、米国にとっての日本の価値を高めないといけない」と言うのは、安倍元首相に重用された河野克俊・元統合幕僚長だ。日本がさらに従属国家とならなければ、アメリカが日本のために核を使用しないと説く。

安倍元首相が国会で興味深い見解を示している。

北朝鮮が核でアメリカを攻撃できるようになると、アメリカが日本のために「敵基地」を叩くことを躊躇するのではないか、という質問に安倍首相(当時)はこう答弁した。専守防衛の中で「打撃力は専ら米国に頼っている」とした上で、アメリカが「日本のために報復するかどうかの問題だ」として、敵基地攻撃能力を持つことは「常に検討していく」と答えた。

トランプ大統領(当時)を引き合いに出しても、質問自体に反論することはなかった。(2017年2月14日、衆議院予算委員会)

SIPRIによれば、2021年の核兵器保有は1位のロシアが6255発、2位のアメリカが5550発・・・・そして北朝鮮は40~50発ぐらいという。北朝鮮はロシアとは違って核大国ではない。国土も狭い。先に核で日本を攻撃すれば、北朝鮮の国土は灰燼に帰すだろう。北朝鮮が日本を核攻撃すると言ったこともない。北朝鮮は常にアメリカを意識している。アメリカの核が正義というわけでもない。

「核を持っていればアメリカの攻撃を防ぐことができる」というのが、北朝鮮の金正恩労働党委員長がイラク戦争から引き出した教訓だ。イラク戦争はアメリカが「イラクは大量破壊兵器を持っている」と言って、トマホークなどでイラクを攻撃した。イラクは大量破壊兵器を持っていないとわかって、世界的な反米・反戦運動が起きた。

北朝鮮がミサイルを発射する度にJアラート(全国瞬時警報システム)が作動する。日本の領土、領海に着弾しようがしまいが、サイレンが鳴る。北朝鮮は怖いという感情を植え付けるだけの、政府による脅威あおりシステムに他ならない。

中国を「最大の戦略的な挑戦」国とする日本だが、どうか。

中国は日本にとって最大の貿易相手国である。日本企業の海外拠点数でも中国はトップだ。日本も中国もアジアの1員であり、その地理的位置は動かせない。対中国こそ、軍事ではなく、外交の知略を巡らせる必要がある。

ところが日本の政治は、とりわけ安倍政権によって極右に、軍事的にはアメリカ一辺倒に染め上げられてしまった。

戦後、日本はアメリカに従属することで、アジアのトップとして振る舞ってきた。GDPがアジアでトップだったことが大きい。だがそれも、2010年を境に、中国のGDPが日本を上回り、自民党内には鬱屈した感情が蓄積した。裏返しとして「中国なにするものぞ」という感情が支配した。

アメリカに追随することが日本の生きる道と信じる岸田・自公政権だが、アメリカの国力が低下していることは世界周知の事実である。「世界の警察官をやめる」とオバマ大統が宣言したのは2013年のことだった。

アメリカ国内でも、パックスアメリカーナ(アメリカの軍事力による平和)の終わりという見方が台頭してきている。今後の世界秩序は、アメリカでもなく中国でもなく、多極化するだろうと。

アメリカの国力低下に伴い、日米軍事同盟は日本の軍事力が補ってきた。安倍政権下の2015年、集団的自衛権行使も、岸田政権の軍事力強化もそういうことだ。しかし、ここに外交はない。

日本では訳もわからず「中国は怖い」という感情が支配的だ。中国は品行方正な国ではないが、中国共産党大会後の報道で、中国が台湾や日本を攻めるという見方はなかった。たとえば毎日新聞10月24日付は中国に詳しい高原明生東大教授の見方を紹介。高原氏は「平和統一の方針は堅持しており、政策変更はない」と語っている。

今月3日、いまの日米同盟関係を象徴する事件が起きた。米軍岩国基地の海兵隊員が、岩国市の自動車販売店から車を盗み、その盗難車で事故を起こし、米軍基地に逃げ込んだ。そのため警察は身柄を拘束できない、強制捜査ができない。日米地位協定で、そう定められているからだ。

沖縄では、米兵の性暴力におびえて暮らす多くの女性たちがいる。民家の上空を米軍機が自由に飛び回るため、墜落の危険や騒音などに苦しんでいる人たちが多数いる。

一方、イラク戦争でアメリカに破壊され米軍の占領下にあったイラクはどうしたか。「イラク・アメリカ地位協定」に「米軍撤退」を明記して、米軍を撤退させたのである。

この現実を日本国民は直視すべきではないか。

軍事同盟の力で領土、領海を守る「国家の安全保障」から「人間の安全保障」へーーこの流れを確かなものにしたい。

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