沖縄の振興策を、どう考えればよいのだろうか。
沖縄国際大学の佐藤学教授から、うってつけの文献をいただいた。『沖縄エンパワーメントー沖縄振興と自治の新たな構想ー沖縄自治構想会議 2018年6月』ほか、数冊の関連文献だ。
(『沖縄エンパワーメントー沖縄振興と自治の新たな構想ー沖縄自治構想会議 2018年6月』は以下『エンパワーメント』と略称する。「」内は、すべて『エンパワーメント』からの引用)
「エンパワーメント」とは「生活の基盤を失った人々にたいして基盤を提供していくこと」である。
「沖縄自治構想会議」は島袋純・琉球大学教授、佐藤学・沖縄国際大学教授、星野英一・琉球大学教授の3氏を共同代表とし、ジャーナリスト、記者、行政職員らによる研究会だ。
その他にも、「銀行系シンクタンク、大学福祉研究者、就労支援団体等の経済及び福祉に関する専門家」の協力を得て、いわば、沖縄の総力を挙げて出来上がった著作である。
『エンパワーメント』に学ぶことはたくさんある。
『エンパワーメント』は、以下の目的意識の下に展開される。
「これまでの沖縄振興の仕組みが沖縄の自治と沖縄社会のあり方にもたらす基本的本質的な問題点を明らかにする」。
「この仕組みの中での自治体補助金獲得の長年の努力は、教育福祉予算の縮小を招き、かえって沖縄社会の分断をさらに拡大していくという自治体政策の構造的で深刻かつ長期的な問題を引き起こし続けてきた」。
「使い勝手が良いと言われる沖縄振興一括交付金であったとしても、国の裁量の余地が大きい、つまり自治体に対する統制力の強い国庫補助金である。その高率補助の補助金獲得の努力は、自治の基盤を自ら掘り崩して」いく。
「復帰後、沖縄の自治体は、高率補助の公共事業の獲得に奔走努力し、この部門での要求をますます大きくする一方で、生活保護費、就学援助、公立保育所の整備と三か年保育の実施、学童施設の整備や支援、医療費の子どもへの無償化など、全国でのサービスの水準と比べれば、この分野の充実の努力を怠ってきたといえる」。
「自治の基盤すら、国の裁量の極めて大きな国庫補助金によって、左右される事態が生じている」。
補助金は「一般財源をさらに削っていく可能性が高い」。
「人間としての尊厳と平和に生きる権利は、多数派の意思や政府の権力で侵害することはできない。その権利を保障することこそが、日本国憲法が求めたな政府と自治体の 基本的な役割である」。
沖縄の現状はどうなっているのだろうか。
沖縄県の2016年のデータでは「子どもの貧困率29・9%」
山形大学の研究では「貧困率34・8%」
「沖縄は地縁血縁が強固な社会というユイマール神話へ安易に安住して、孤立を放置することは、意識的にせよ無意識にせよ、社会の多数派による貧困層の排除である」
「沖縄が、基地とリンクした国の裁量の大きい国庫補助金で沖縄の人々の生活基盤、自治の組織基盤、財政基盤、経済活動の基盤を充足するしかないとすれば、つまり、人々の暮らしと自治の基盤を、国の裁量に委ねるということであり、人権と自治の喪失であり、。自立と自律を完全に断念することになる。自治の喪失、軍事的植民地化の完成と言っても過言ではない」
そして最後に、新たな沖縄振興策を提起して、こう結ぶ。
「①沖縄に住むすべての人々が人間らしく平和に生きる権利を持ち、これはほかに代えることのできない最も重要な価値であり、国や自治体の存在は、この権利の保障のためにあることを再確認する」
「②沖縄関連予算に含まれる国庫補助金の大幅な縮小をすること、それにより、自立と自律が促進され、住民の生活基盤、自治の基盤が強化される。一括交付金の廃止、沖縄振興特別措置法の改正」など。
「③制度として沖縄の代表が、基地問題全体を協議し、基地の返還について主体的に推進できる協議の場の設定。軍転法の刷新と沖縄基地問題対策協議会に代わる新機関の設置」
「④社会的包摂を沖縄振興計画の第一基軸として、社会的に排除され、孤立してきた人々すべてを社会的に包摂していくための、住宅支援、就労支援、養育支援、妊娠中からの保育支援、すべての関連分野が統合された企画調整、政策形成部門の設置」
「⑤学校や社会から排除され孤立した子どもと親への学校と社会への包摂を、最重要課題として取り組む市町村と学校と地域のネットワークの構築」
「それをなし得なければ沖縄の自治の未来はない」
『エンパワーメント』が、最も依拠するのが「日本国憲法」だ。
「日本国憲法の神髄とは、人類普遍の思想として人類全体の共有を目指した普遍的な価値、思想であり、日本国憲法は、この普遍性に基づいている。それは憲法前文、13条、25条へ具体化されている」
これも沖縄国際大学の佐藤学教授からいただいた資料の1つだが、朝日新聞2022年5月13日には沖縄担当大臣(当時)の西銘恒三郎氏のインタビューが載っている。西銘氏はこんなことを語っている。
〈沖振法は、もうない方がいいんじゃないでしょうか。他県と同様に苦労するかもしれないけど、『振興予算は一括で3千億円を』と政府に言うより、各省に散らばっても4、5千億円になるかもしれない。その代わり米軍基地の問題ではがんがん闘いますよ〉
今年の衆院総選挙後の10月21日、沖縄タイムスにはこんな記事が載っている。
[識者の視点 2024衆院選](2) 沖縄振興 制度疲労の高率補助 獺口浩一氏 琉球大教授
〈インフラの整備や県民所得の向上など戦後の復興に沖縄振興特別措置法や沖縄振興計画は大きな役割を果たしてきた〉
〈しかし、社会・経済の構造が大きく変化し、未来志向で国も地域も成長戦略を描くことが求められる時代に、沖縄は従来の枠組みで対応できるのかを考える必要がある〉
『エンパワーメント』の思想はすでに軽視できないほどに広がり、動き出しているのだ。沖縄、そして全国のみなさん、『エンパワーメント』を学ぼうではありませんか!!