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星英雄:オリンピックについて考える

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東京オリンピックは何のために、誰のためにやるのか。IOC(国際オリンピック委員会)は「緊急事態宣言」下でもオリンピックは開催できると叫び、菅政権は「オリンピック」を開催するための道具として「緊急事態宣言」を繰り返す。国民に自粛を求めるだけで、無為無策の菅政権は、この上なく醜悪だ。オリンピックについて考えてみたい。

東京、大阪、沖縄など10都道府県が緊急事態宣言下にある5月26日、東京・夢の島公園に立ち寄った。驚いたことに、アーチェリー会場が急ピッチで建設中だった。その場にいた関係者はこう言った。「コロナで地方から(観客が)来られないとしても、東京からは来ると思います」

急造中のアーチェリー会場(東京・夢の島公園))

パブリックビューイング会場の設置も、都内のあちこちで進められている。人流の抑制という名目で国民・都民には自粛を求め、オリンピックなら人流拡大も平気だという菅政権・小池都政。なに様のつもりだ。

5月はじめ、札幌市でオリンピックのテストマラソンが強行された。感染が広がるからやめてほしい、という市民の声を無視して。案の定、コロナ禍が拡大し、緊急事態宣言を呼び込んでしまった。

市民の間に「子どもの学校の運動会も許されないのに、どうしてオリンピックができるのか」という怒りが充満している。

いま、国民の7~8割はオリンピックの延期、中止を求めている。国民の声を聞こうともしない菅政権なのだ。

東京オリンピック・パラリンピックはすでに、海外の一般客は来ないことが決まっている。近代オリンピック史上、初めてのことだ。「おもてなし」とさわぎまくったことは忘れたのか。

しかも、外国の一般客が不参加の意味を論じたものはほとんどない。オリンピックメダリストの有森裕子と山口香の対談は傾聴に値する。

『文藝春秋』4月号に掲載された2人の対談は「東京五輪、国民は望むのか コロナ禍が収束しない中、それでも開催すべきなのか?」というタイトルだ。

有森は言う。「五輪の観客は、お客さんではなくて主役なんです。主役を抜きにしてまで開催する必要があるんでしょうか」

スポーツには各種世界大会がある。それとオリンピックはなにが違うのか。オリンピックはしばしば「平和の祭典」といわれてきた。オリンピック憲章も、「スポーツの祭典」とうたっている。「祭典」は選手だけでは成り立たない。オリンピックは選手と観客が一体となって盛り上げる。「観客は主役だ」という有森発言をかみしめたい。

では、海外の観客を入れない東京オリンピックは何なのか。これについて有森はこう言っている。「外国人選手が参加する国体(国民体育大会)みたいな大会になるのかしら」

アメリカのワシントン・ポスト紙がバッハIOC会長について「ぼったくり男爵」と評した。IOCがオリンピック開催に突進するのも、動機はカネである。IOCの収入の7割は放映権料。アメリカのNBCと76億5千万ドル(8338億円、1ドル=109円で換算)の契約を交わしている。狂気じみた真夏に東京オリンピックをやるのも、真夏はNBCにとっても、スポーツ中継がない季節だから、というのだ。

IOCは2016年にインターネット放送会社を開設。バッハ会長は、その運営会社の社長も兼務しており、収入は1億円を超えるといわれている。それだけではない。IOC委員らは、オリンピック開催中はパーティー三昧の日々を過ごすので、「オリンピック貴族」と呼ばれている。日本滞在中も、競技はそっちのけで、高級ホテルで優雅に過ごすことになる。なにしろ、彼らは自分たちを特権階級だと思っているのだから。

オリンピックには巨大企業が群がっている。コカ・コーラやオメガ、インテル、VISA、日本のトヨタ、ブリジストン、パナソニック等々。スポンサー料は非公開だが、オリンピックのスポンサー企業はオリンピック・マークの使用権などと引き換えに巨額のスポンサー料を支払う。そのスポンサー料も当然、国民の懐からでている。商品の代金として。会場内でも、観客は飲み物を選べない。許されるのはスポンサー企業のものだけだ。

すでに諸国民・市民のオリンピックではないことを直視すべきだ。巨額の開催費用の大半は国民の税金だ。オリンピックを利潤獲得の好機とする世界の巨大企業と血税でそれを支える諸国民の構図は隠しようがない。IOCは選手に対しても、新型コロナウイルスによる死亡リスクは自己責任だとしている。

そもそも東京オリンピックとはどういうものなのか。ウソと買収で始まったのが東京オリンピックではないか。

安倍前首相はIOC(国際オリンピック委員会)の総会で、「アンダー・コントロール」という言葉を使って招致を決めた。その後、「復興オリンピック」と称され、あたかも被災地が復興したかのような幻想をふりまいている。だが、東京電力福島第1原発事故による被災地はいまだ圧倒的多数の人々が避難を余儀なくされているのが現実だ。原発事故当日の「原子力緊急事態宣言」は今なお、解除されていない。

竹田恒和JOC(日本オリンピック委員会)会長は日本にオリンピックを招致するために巨額の賄賂を支払ったとして、会長を辞したことも忘れるわけにはいかない。

実際にやっていることはこれまでできなかった東京の再開発。築地市場を豊洲に移し、築地の跡地はオリンピックの駐車場。新国立競技場を造るため、都営団地「霞ヶ丘アパート」の高齢住民を追い出した。

新型コロナウイルスはパンデミック(世界的大流行)だ。南極大陸以外の全ての大陸に広がっている。アメリカのジョンズ・ホプキンス大学によれば170億人以上が感染し、死者は350万人を超えている。

国際通貨基金(IMF)、世界保健機関(WHO)、世界銀行グループ、世界貿易機関(WTO)のトップ4人が共同で「ワクチンの公平性とパンデミック撲滅に向けた新しい公約」を提言をした。重要な提言だ。

「いくつかの豊かな国はすでに国民への追加接種を議論しているが、途上国の多くの人々は、最前線で働く医療従事者でも、まだ1度も接種を受けていない。低所得国では、まだ投与されたワクチンのうち1%も受け取っていない」のが世界の現状だとしている。

日本を含む世界がパンデミックなのだ。オリンピックではなく、新型コロナのパンデミックを克服するために世界各国の連帯が求められている。

オリンピック憲章の冒頭には「オリンピズムの根本原則」が掲げられている。「スポーツをすることは人権の 1 つである。 すべての個人はいかなる種類の差別も受けることなく、オリンピック精神に基づき、スポーツをする機会を与えられなければならない。 オリンピック精神においては友情、 連帯、 フェアプレーの精神とともに相互理解が求められる」とある。

東京オリンピックを強行することに「友情、 連帯、 フェアプレーの精神」はあるのだろうか。

すでに、選手団を派遣しないと表明した国もある。インドやアフリカ諸国では流行が止む気配はない。各国の状況で、選手強化にも差がついている。アメリカの国務省は日本への「渡航中止」を勧告した。日本の感染拡大は深刻なのだ。

菅首相は「緊急事態宣言下でオリンピック開催は可能なのか」と問われても、答えずにやり過ごしてきた。菅政権は国民には自粛を求めるが、無為無策、無責任極まりない。

水際対策の「甘さ」もよく知られている。空港の検疫は、PCR検査より精度が劣る抗原検査である。検査後の、待機期間中も抜け穴がある。先日の全国知事会でも「ウイルスをどうして(国内に)入れてしまったのか。水際対策が緩すぎる」と政府への怒りが噴出した。

東京・新橋で焼き肉屋を経営する女性はこう言う。「初めて国会審議を見て、衝撃を受けました。菅義偉首相は棒読みするような答弁ばかり。堂々と居眠りしている大臣もいた」「なんだ、こんな調子でお店を開けるか、閉めるかを決めているのか。罰則もつくんですよ」(朝日新聞5月3日)

東京オリンピックは、「オリンピック憲章」に反する大会として歴史に刻まれるだろう。菅首相は国民の命より自らの延命を優先させた醜悪な政権として記録されるだろう。

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