石垣市議会の2022年12月議会のやりとりを紹介する。
「今の反撃能力って、すごい危険なんです。この反撃能力によって戦争状態になるんです」「国ではそういうふうに決定したかも分からんけども、我々、国境の島の石垣島は、そうはいかん」
「私も自由民主党。国を守るということはどういうことか私も多少は理解しているつもりですけどあまりにも乱暴過ぎる。そして、税金だって43兆円でしょう」
質問者は仲間均市議。自民党所属の市議である。革新系ではない。
自民党の石垣市議は反撃能力(敵基地攻撃能力)保有は戦争を引き起こすと主張している。これが普通の理解だ。「43兆円」は今後5年間の防衛費を指すが、「実際の規模は60兆円」という新聞報道もある。増税か国債発行かの議論は自民党内にあるが、どちらも国民の負担増に変わりはない。
答弁に立った中山義隆市長はのらりくらり。敵基地攻撃能力保有を否定することはなかった。
地方自治法は自治体の役割について「住民の福祉の増進を図ることを基本」(地方自治法1条2)とすることを明記している。中山市長は住民の命と暮らしを守るつもりはあるのだろうか。
「私たちの税金が戦争準備に使われている」と井上美智子市議は憤る。
岸田政権は、閣議決定だけで、敵基地攻撃能力を反撃能力と言い換えて、日本のあり方をひっくり返した。国際法違反の先制攻撃は、日本国民を加害者にする。国民はこのことに責任を負えるのか。
元自民党石垣支部幹事長の砥板芳行市議はこう話す。
「日本社会は余りにも右に振れすぎている。台湾有事の名のもとにタガがはずれたかのように軍事を拡大、アメリカにいわれるままに武器を購入する。当初は防衛的な話が、今では長射程ミサイルの話になっているのはおかしい」
戦争ができる国の最前線
3月16日自衛隊駐屯地開設、同18日地対艦ミサイルなど搬入、同22日住民への説明会。市民らの激しい抗議にもかかわらず、わずか1週間でこれらを強行した.
住民に対する説明会は「石垣島に軍事基地をつくらせない市民連絡会」は不参加だったが、それでも「長距離ミサイルを配備するなら、自衛隊に賛成でも反対でも、(長距離ミサイルを)容認できない」という意見が出た。長距離ミサイル反対の根強さをうかがわせるものだ。
ミサイルなど搬入の翌日、沖縄タイムスは「いよいよ戦争ができる国の最前線に立たされた」と報じた。
「石垣島に軍事基地をつくらせない市民連絡会」事務局の藤井幸子さんは言う。「安保3文書の閣議決定後、私たち市民連絡会の街頭での訴えに対し激励が増えた。敵基地攻撃能力の保有に対する不安が大きくなっている」
あの場所はダメだ
自衛隊石垣島駐屯地の造成工事が始まったのは2019年3月1日だった。すでに周辺地域の開南、嵩田、於茂登、川原4地区の反対運動ははじまっていた。この地域の主な生業は農業だ。
自衛隊駐屯地は於茂登岳の麓にある。於茂登岳は島民にとって特別な山だ。飲料水や農業用水に利用する大事な水の源だ。駐屯地を容認する人たちのなかにも、「あの場所はダメだ」という人は少なくない。信仰の対象にもなっている特別な場所なのだ。
ところが、政府は地下水への影響も無視し、排水設備の工事が終わらないのに、駐屯地開設を強行した。岸田政権は環境や市民の暮らしは眼中にないのだ。
2018年には「石垣市住民投票を求める会」が有権者の約4割の署名を集め、中山市長に住民投票を直接請求したが、与党多数の市議会はそれを否決した。しかし、石垣市自治基本条例は、議会が否決したとしても、市長には住民投票の実施義務があることを定めていた。市長と与党の理不尽な暴挙だ。
「ウクライナは、明日の東アジアかもしれない」。岸田首相の好きなフレーズという。日本国民の多くも、日本はアジアの国に侵略されるのではと恐れているようだ。しかし、ロシアのウクライナ侵略を見ていると、アメリカの事情がみえてくる。
ロシアのウクライナ侵略戦争は、核兵器で全世界を威嚇して始まった。アメリカはウクライナへの武器支援を続けつつ、自国に波及しないように慎重だった。アメリカは他国のために核を使わない。アメリカの国土が戦場になることは避ける、という意図が透けて見える。
アメリカは自国を戦場にしない
オバマ米大統領'(当時)は2013年、「アメリカは世界の警察官ではない」と言った。いまアメリカでは、パックス・アメリカーナ(アメリカの軍事力による平和)の終焉が語られている。ベトナム戦争や対テロ戦争に疲れ果て、「アメリカの若者を殺すな」という厭戦気分が広がっている。
「石垣島に軍事基地をつくらせない市民連絡会」事務局の藤井幸子さんはこうも言う。「ウクライナをみていたら、戦争は始めると終わらない。有事(戦争)にさせないことが大事だ。市民に依拠して運動を大きくしていきたい」
「石垣島に軍事基地をつくらせない市民連絡会」は4月15日総会を開き、基地の撤去をめざし名称を「石垣島の平和と自然を守る市民連絡会」と改正した。「市民の生活権、人権、環境権を守る」などの今年度活動方針を決めた。
1931年の中国・柳条湖事件から1945年のポツダム宣言受諾(日本の降伏)までの足かけ15年にわたる日本の侵略戦争は、アジア・太平洋諸国に2000万人以上の死者を出したと言われる。この多大な犠牲の上に、日本国憲法は生まれた。専守防衛はその日本国憲法の産物だ。
「専守防衛」とは、相手から武力攻撃を受けたとき初めて「防衛力」を行使する。保持する「防衛力」も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢を指す、と言われている。
日本国憲法は日本の最高法規でもある。
戦争は国民が犠牲に
ところが岸田首相は、日本国憲法が定める主権者国民の意志も問わず、国会での議論もせずに、閣議決定だけで、敵基地攻撃能力の保有を宣言した。日本の安全保障政策の大転換を主権者国民にはかることなく、決めたのだ。
花谷史郎市議はこう指摘する。「日本という国のあり方を、ただ閣議決定で決めたこと、国会も通さず、民意を問わないことは、戦前回帰を思わせて恐ろしい」
玉城デニー沖縄県知事も敵基地攻撃能力について「憲法の精神とは違う」と反対する考えを示している。
子どものころに、アジア・太平洋戦争を体験した80代の山里節子さんはこう言った。「戦争を知ってる世代と知らない世代の認識ギャップをうめなければいけない」。両者の対話が必要なのだ。
韓国やアメリカなど世界のメディアはいま、敵基地攻撃能力保有に注目し、石垣島に取材にやってきている。
石垣島のミサイル配備反対運動は、平和を求める運動だ。戦争は、必ず国民の犠牲を伴う。自衛隊だけで闘う戦争はあり得ない。ミサイル攻撃は、ウクライナを見てもわかるように、全てを防ぐことはできない。
人間の命ほど大切なものはない。石垣島、与那国島、宮古島の平和運動がいっそう広がることを願っている。