「圧殺の海」など沖縄のドキュメンタリー映画を撮り続けてきた藤本幸久監督と影山あさ子監督が「映画人生をかけて」、北海道のアイヌやアメリカ先住民などのドキュメンタリー映画「世界の先住民と先住権」(仮称)に取り組んでいます。平和への思いを育んだシンガポールでの留学時代やアイヌのことなど、この映画にかける思いを共同監督の影山あさ子さんに聞きました。(文責・星英雄)
サーモン・ピープルを追う
ドキュメンタリーのテーマは「世界の先住民と先住権」です。世界には多くの先住民がいますが、先住権をどのように実現してきたのか、どうやって土地や権利を取り戻すことができたのか、追いかけてみたい。
オーストラリアでは国土の4分の1がすでに先住民のアボリジニに返還されていると聞いています。先住権を認める社会か否かは、日本と私たちが今どこにいるのか、私たちの「現在地」を知る上でも重要なことだと思います。
これまでは新型コロナで鎖国状態でしたが、今年から海外に行けそうな気がしますし、行ってみたい。「世界の先住民と先住権」は連作・シリーズ化を構想しています。その第1部として「サーモン・ピープル」に取り組んでいます。
アイヌの人たちは伝統的にサケ(鮭)を主食としてきました。毎年9月には、北海道の各地で新しいサケを迎える儀式・アシリチェップノミを行います。実は、サケをとっていたのはアイヌだけではなく、北太平洋の先住民はみんなサケをとっていたのです。
アメリカ映画の西部劇にはほとんど出てきませんが、アメリカの先住民には農耕民や漁民もいて、サケをとることで多くの人たちが生きてきたのです。
アメリカの西海岸のワシントン州、カナダとの国境に近いところに、ピュージェット湾とオリンピック半島があります。ここに暮らす先住民の人たちは、漁獲量の50%の権利をワシントン州政府に認めさせました。そこにいたるには、もちろん、激しいたたかいがあったのですが、50%の権利を取り戻すとともに、厳格な資源管理も自ら行っています。
オリンピック半島を流れるエルワ川は、元々40万匹のサケが遡上する豊かな川でした。そこに2つのダムがつくられ、遡上するサケが3000匹にまで激減しましたが、ダム建設から100年後にこのダムを撤去させました。ダム撤去後も7年間休漁にするなど、丁寧な環境回復の試みが続いています。
先住権の回復は、そこで人々が暮らし続けられる自然環境の回復、丁寧な資源管理と密接に結びついているのです。
大西洋にもサケはいます。アトランティック・サーモンです。北欧の先住民、サーミ族はトナカイを飼う遊牧民として知られてきましたが、実は海や川、湖の多い地域で、海や川でサケをとる人の方が多いのだそうです。大西洋の『サーモン・ピープル』です。
アイヌもアメリカや北欧の先住民も、みんなサケでつながっているのです。
今年から来年にかけて、北米のサーモン・ピープルを訪ねて取材することに決めました。ワシントン州オリンピック半島に海の民・マカと川の民・クララムを訪ね、アラスカにも行く計画です。北米取材の後に、ぜひ、北欧にサーミ族を訪ねたいと思います。フィンランドやノルウェーの憲法には、サーミ族の権利や国家の義務も書かれているのだそうです。
明治政府はアイヌの権利を一切無視して全部取りあげましたが、先住民にはどんな権利があり、世界の先住民はそれをどのように取り戻し、どのように暮らしているのでしょう。それを知りたいと思っています。みなさんに映像で伝えたいと願っています。
アイヌと出会って
獣医になりたくて北海道大学(北大)に進学した後、アイヌの人々と出会いました。学生時代に平和運動や集会に参加すると、アイヌの人たちもいました。その人たちからは「アイヌのことはやってくれないのか」といわれたりもしました。
北大の2年生の時、大学に「アイヌ納骨堂」が造られました。そこに納められたのは北大医学部の教授らが「標本」として集めた約1000体のアイヌ民族の遺骨です。「人種学」が盛んな時代に、「墓荒らし」同然に掘り出された遺骨で、長年、動物実験施設内などにほったらかしにされていました。人間の尊厳を踏みにじる、決して許されないことです。
忘れ難いのは、「ケンちゃん」こと、川村シンリツ・エオリパック・アイヌさんの言葉です。2001年9月のアメリカ同時多発テロの後、自衛隊の海外派兵や憲法9条、愛国心などについて日本と韓国、在日の若者たちと話をしている時に、「お前らみんな、大陸に帰れ」と一喝されました。「お前らみんな、国があるだろ。俺には国がない。愛国心どころか、国がない。全部とられた。アイヌ国を取り戻したい」と。ケンちゃんは沖縄にも何度も足を運んだことのある、“元気”なアイヌのエカシ(長老)です。
ケンちゃんが言う「全部取られた」というのは本当です。明治になり、サケ漁も鹿猟も禁止されました。北海道が日本の版図に組み込まれ、土地はすべて国有地とされました。明治政府はアイヌの権利を無視して、 一方的にアイヌの土地を取り上げたのです。明治政府は北海道旧土人保護法という同化と差別の法律をつくりました。
北海道旧土人保護法は1997年に廃止され、アイヌ文化振興法が制定されました。2019年に制定されたアイヌ新法(正式名称「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」)も、先住民族とは書いてあっても、先住権については書いていません。つまり、先住権は認めていないのです。
国連先住民族権利宣言では、自己決定権、同化を強要されない権利、土地や資源の返還や賠償などを求める権利、自治を求める権利、文化的・宗教的な慣習を実践する権利、独自の言語で教育を行い、受ける権利、伝統的につながりを持ってきた土地や資源を利用する権利など広範な先住権を定めています。
2007年に日本も賛成して採択された宣言です。これが、世界標準ではないでしょうか。
十勝川河口のアイヌの人たち、ラポロアイヌネイションは昨年、国と北海道を相手に裁判を起こしました。祖先がサケ漁をしていた川でサケをとる権利を認めよ、先住権を認めよという裁判です。
ラポロアイヌネイションの人は裁判でこう訴えています。「私たちは、サケを生活のため、また経済活動のために捕獲したいと思っています。それによってアイヌが自立し、生活できることを望んでいます。私たちは川を取り戻し、サケを取り戻し、生活を取り戻したいのです」。
私たちはこの裁判を傍聴していますが、国策の壁を感じます。
沖縄も辺野古新基地建設に関する裁判がいくつもありますが、勝てません。国策として勝たせない方針が貫かれていると感じています。
ラポロアイヌネイションの裁判でも、例えば、過去にアイヌがサケをとっていた歴史的事実について、認否を何度求められても、国は認否しません。認否すること自体を拒否するのです。「現行法に規定がないから、認否するまでもない」と、まるで、国が勝つことになっている、と言わんばかりに。
アイヌは先住民族ですが日本の中では多数者ではありません。しかし、だからと言って権利を無視してよいわけではありません。「アイヌ民族がサケをとっていた」という歴史的事実の認否すら行わない国の姿勢は、誠実さを全く欠いています。先住民・アイヌとどう向き合うか、日本という国と私たちの「現在地」が問われていると思います。
表現者として譲れない
高校生の時にシンガポールに留学したことがあります。学校の守衛さんや寮のコックさんが、片言の日本語で話しかけてくれるので、かつて日本がいたことは、うっすらと感じてはいました。それが何なのか、教えてくれたのは、たまたま乗ったタクシーの運転手さんです。「戦争中、日本軍に中国人がたくさん殺された」と。街の真ん中にある「血債の塔」の近くを通った時でした。
シンガポールを占領した日本軍による華僑粛清の犠牲者は、現地では5万人ともいわれています。「血債の塔」はその戦没者の記念碑です。全く知らなかった住民虐殺の歴史は、衝撃でした。私が生まれる前の出来事ではありますが、私の時代に同じことは繰り返さないと決めました。
沖縄も長く撮影していますが、先住民・アイヌのことも、長くトゲのように刺さり続けてきた問題です。北海道に長く暮らせば暮らすほど、トゲは深く刺さってきます。表現者として、何もしないということは、国家の無法に加担しているように思えてくるからです。
沖縄では20年近く基地問題を撮影してきましたが、仮想敵国・中国に対する日米同盟の最前線基地を琉球弧(九州の南から台湾へ弧状に連なる島列)に構築するという戦争準備計画がくっきりと浮かび上がる時代となりました。
地球を見渡しても、地球環境もずいぶんひどいことになっています。北海道は自然豊かな場所と思われていますが、原生林はほとんど残っていません。近年、サケの漁獲量も激減していますが、その原因も分かりません。
先住民と先住権を考えることは地球の自然を考えることにもつながります。
皆さんのご協力を得て、順調に撮影を続けています。裁判はもちろん、新しいサケを迎えるアシリチェップノミなどのアイヌの儀式、サケ漁の様子など。映画人生をかけて取り組んでいます。
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ご協力をお願いいたします
森の映画社の藤本幸久、影山あさ子です。
このドキュメンタリー映画は、北海道に拠点を置くドキュメンタリストとして、いつか必ずつくらなければならないと思ってきた作品です。映画人生をかけています。先住民と共に生きる世の中を取り戻す力となる作品をつくりあげます。
このプロジェクトは数年がかりの大きなプロジェクトです。第2部でオーストラリアの先住民、第3部として熱帯雨林の先住民を取材・撮影する計画です。
現在、下記のように製作協力金を集めています。ぜひ、ご協力をお願いいたします。
ドキュメンタリー映画「世界の先住民と先住権」第1部 「サーモン・ピープルの世界」(仮題)
製作協力金 1口 10,000円
製作にご協力いただいた方には、①取材した内容を写真・図と文章でまとめたブックレット、②完成作品の全国共通ご招待券を進呈します。
<振込先=郵便払込口座>
口座番号: 02710-6-97826 加入者名: 影山あさ子事務所
*通信欄にご住所、お名前、お電話番号と「世界の先住民と先住権」とお書き添えください。
3部作の完成まで、ぜひ、お付き合いください。