「緊急事態宣言」は明日にも全面解除される見通しだという。だが、安倍首相と小池都知事が「自粛」を求めてきた「緊急事態宣言」下の東京都で、病院内での感染、そして死者が多数発生したことは顧みられない。命と健康を守るはずの病院でのことなのに、東京都は実態を明らかにしようとはしない。
近くの公園入り口に、赤い文字の立札が立っている。「緊急事態措置実施中 公園の利用を自粛してください」。安倍首相の「緊急事態」宣言を受け、東京都は「徹底した外出自粛」などを都民に要請した。その「緊急事態措置」の立札だ。
筆者は自分や家族の安全のため「自粛」しているが、政府や東京都が「自粛」を求めるだけで、やるべきことをやっていないことに批判はある。新型コロナウイルスの特徴は、感染者の8割を占めるといわれる軽症者や無症状者が、感染していない人々に感染させることだ。自覚症状のない人が、患者として病院に来ればどうなるか。「緊急事態宣言」が解除されるからといって不問に付していいはずがない。
安倍首相や小池都知事が自粛を求める東京都で、病院内の感染・死者が多発した。その1つ、永寿総合病院を見てみたい。
永寿総合病院は台東区の中核病院としての役割を担うベッド数400の大きな病院だ。東京都指定の二次救急医療機関として、入院を必要とする緊急性の高い患者を24時間体制で受け入れる病院でもある。「東京都がん診療連携協力病院」として認定もされた。
この永寿総合病院で、クラスター(集団)が発生した。その規模に驚かざるを得ない。陽性者は患者131人、医師・看護師ら83人、合わせて214人もの多さだ。死者は43人すべて入院患者だ。
日本中を震撼させた大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の感染者は723人、死者13人。これと比べるだけで、事の重大性がわかる。しかも東京都は院内感染した都内の病院はほかにもまだ14はあるというのだ。
永寿総合病院は「幸せ長寿の実現のために寄与したい」とうたうが、それとは真逆の、なんともいいようのない悲惨な事態となったのだ。
厚労省のクラスター班が調査に乗り出したが、感染源を特定できなかった。結局、全患者と医師、看護師ら全職員のPCR検査を実行し、陽性患者と陰性患者を分け、接触しないようにした。クラスター対策もここでは感染経路を断つという、まさに世界標準の「検査、そして隔離」を実行せざるを得なくなってしまった。このことの持つ意味を安倍首相や小池都知事は理解しているのか。
「ロックダウン」など刺激的言葉を発する小池都知事だが、都民の命と健康を守るために都知事としてこの問題をどう受け止めているのか。
都庁に電話で取材した。感染症対策課、感染者情報センター、福祉保健局の担当者へと電話を回された。ところが、東京都全体の陽性者数や死者数はわかるが、病院関連の統計はないと言うのだ。「保健所や病院から報告があるのだから分かるはず」と、再度調べて回答するよう求めた。しかし結局、福祉保健局は「少なくとも15病院ある」とは言うものの、陽性者や死者の人数はわからないと答えた。小池都政は情報開示をしないのか。
小池都知事は記者会見で「夜の歓楽街が感染源」と強調することはあっても、病院内の悲惨な実態を語ることも、反省の弁もなかった。死者を悼む言葉もなかった。病院の開設は医療法で知事の許可を得なければならないと定めている。知事として責任は感じないのか。
実は、小池都知事はすでに昨年12月都議会でこう語っていた。都立病院、公社病院を「地方独立行政法人に移行する準備を開始する」。「地方独立行政法人に移行する」とは、都の財政支出を減らし、都の責任を放棄する路線である。
28歳の力士が感染して死亡したことも忘れてはならないことだ。この事件は、安倍首相が4月7日に緊急事態を宣言し、小池都政が4月10日に緊急事態措置を要請している期間に起きた。
若い力士が38度台の熱をだしたのは4月4日。土曜日ということもあってか、師匠らが保健所に電話してもつながらなかった。近隣の複数の病院にも受け付けてもらえなかったという。
その4日後の4月8日、熱が下がらず血痰が出た。ところが救急車を要請しても、受け入れ先は見つからなかった。夜になって、都内の大学病院に入院。翌9日、症状が悪化したため、別の病院に入院した。4月10日、やっとPCR検査が実現、陽性と判定された。そして集中治療室で治療を受けたが、闘病の末、5月13日に亡くなった。
このケースもまた、「自粛」を求める安倍政権、小池都政の東京都で起きた現実である。「検査を増やせば医療崩壊が起きる」からと、「37・5度以上の発熱が4日以上」などの条件を付け、PCR検査を制限してきた。保健所を通せと。
東京都内の保健所に勤務するAさんはこう言った。「国・厚労省の指示は、『目安』といえどもそれが基本になる。37・5度の熱が4日つづいていなければ、様子をみてほしいとなるのは当然です」
検査体制の不備、医療体制の貧弱、安倍政権と小池都政の無策が死に追いやったようなものではないか。他にも芸能人やその他の人々、無念の死に至った事例は多い。このことから目をそらすべきではない。
厚生労働白書によれば保健所は、1990年代は全国800を超えていたが、2017年は481に激減。病院も、1990年の1万0096をピークに減少を続け2016年は8442まで落ち込んだ。
格差を当然視し、社会保障・命と健康を軽視し敵視する新自由主義の政策は、とりわけ小泉政権以降の歴代政権で実施されてきた。小池都知事は国会議員のときもいまもその立場だ。国政も都政もその枠内での新型コロナウイルス対策なのである。
いま世界の国々でも、日本でも、新型コロナウイルスは低所得層、弱い立場の人々を襲っている。「アベノマスク」はいまや嘲笑の対象となり、中小業者への給付金が届かないという苦情・批判も充満している。
「実は10倍か、15倍か、20倍かというのは、今の段階では誰も分からない」──と語ったのは専門家会議の尾身茂副座長だ。11日、参議院予算委員会での答弁だった。専門家会議のメンバーがNHKスペシャルで「PCR検査を抑えていることが日本が踏みとどまっている大きな理由だ」と語ったことさえあった。検査の少なさを自慢する国は世界の中でも、日本だけだろう。
それでも安倍首相は死者が少ないことを自慢しているが、アジアの国々は日本以外の国々も欧米諸国より少ない。お隣の韓国は実数でも、人口比でも日本より死者は少ない。
日本にはアメリカのCDC(疾病予防管理センター)のような組織はない。中東呼吸器症候群(MERS)から学んだ韓国には感染症対策の司令塔・疾病管理本部がある。韓国はドライブスルーやウオーキングスルーなど検査体制が充実し、軽症者や無症状者は「生活治療センター」に隔離される。
医療の現場では、いまも防護具の不足に悲鳴をあげている。「自粛」で生活苦にあえぐ日本国民や外国からきた人たちがいる。国内総生産(GDP)を比べると、日本は韓国のほぼ3倍も大きいというのに、安倍政権は税金をどこにつかっているのか。米国製兵器は日本国民の命と健康を守らない。
新型コロナウイルスの2波、3波の襲来は確実視されている。国政も都政も科学的な対策で備えなければならない。