沖縄のいま

星英雄:米軍のやりたい放題を許すな──沖縄の水道水汚染の元凶は米軍だ

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「毒水を飲めといわれても飲めるわけがない」「命や健康の問題。不安だ・・・」。こんな市民の怒りや不安が沖縄で渦巻いている。飲み水である水道水を供給する北谷浄水場の水源から、発がん性などのリスクが指摘される有機フッ素化合物(PFAS)が高濃度で検出された。沖縄県の人口の約3分の1、45万人もの人々が命と健康を脅かされている。汚染源は米軍だ・・・

〈この横幕が、沖縄の人々の思いを代弁している〉

写真をみていただきたい。「米軍による水道水の汚染許さん!! Don’t kill us with PFCs!!」──嘉手納基地の撤去を求めて運動している嘉手納ピースアクションが米軍嘉手納基地第1ゲートの金網に張った横幕だ。

嘉手納ピースアクション世話人の伊波義安さんは、米軍をこう批判する。「米軍は有機フッ素化合物(PFAS)を含んだ泡消火剤を50年以上も使い、垂れ流してきたことをひた隠しにし、県の立ち入り調査も拒否している。言語道断だ」

伊波さんは環境保護運動を推進する「NPO法人奥間川流域保護基金」代表でもある。いま、汚染水の問題に取り組み、講師として飛び回っている。ほかにも、メンバーが沖縄の雑誌に論文を書くなど嘉手納ピースアクションは大忙しだ。

米軍嘉手納基地は3700メートルの滑走路が2本あり、極東最大の米空軍基地として知られる。これまでも事件、事故の危険度「ナンバー1」の米軍基地として恐れられ、撤去を求める声が強い。その米軍嘉手納基地がいま、飲み水の汚染源としても沖縄県民の怒りの対象になっているのだ。

問題の北谷浄水場は「水道用水では県下最大規模の浄水場」(沖縄県企業局)。1キロメートルほどのところに米軍嘉手納基地がある。基地内には北谷浄水場につながる19の井戸群があり、基地内を大工廻川が貫通し、比謝川も嘉手納基地のすぐ横を蛇行している。この辺り一帯の地層は琉球石灰岩のため、汚染物質・有機フッ素化合物は容易に地下水に溶け込む。

水道水を供給している沖縄県企業局の最新(2019年度)の調査も、汚染源は米軍であることを裏付けている。「沖縄県企業局 PFOS+PFOA検出状況 」の最新記録、北谷浄水場の水源の調査データを見てほしい(PFOS+PFOAの濃度、単位ng/L)。

比謝川取水ポンプ場 最大213、最小46
長田川取水ポンプ場 最大172、最小4
川崎取水ポンプ場 最大64、最小15
嘉手納井戸集合 最大81、最小47
大工廻川 最大1133、最小217

米軍嘉手納基地内を流れる大工廻川の汚染濃度は最も高く、最大値で1133(ng/L)を記録、比謝川取水ポンプ場も213の高汚染である。

米軍犯人説は、さまざまな角度から指摘されてきた。

米軍は2015年までの約50年間、在日米軍基地で有機フッ素化合物を含む大量の泡消火剤を使用してきたことについて、米紙ワシントンポストが報道している。

嘉手納基地では2001~2015年に、 泡消火剤が少なくとも 2万3千ℓ放出されたと指摘されている。 (ジョン・ミッチェル著『日米地位協定と基地公害』)

米軍が泡消火剤を使用していることはよく知られている事実だ。その泡消火剤から「6:2FTS」と 「8:2FTS 」が分解生成されることもわかっている。米軍嘉手納基地や米軍普天間基地周辺から「6:2FTS」が検出されたことについて沖縄県は次のように指摘する。

「基地周辺の湧水等で6:2FTS及び 8:2FTS が検出されれば、その湧水等が泡消火剤の影響を受けている可能性(基地では航空機火災に対応するため泡消火剤を保有している)が示唆される」(沖縄県環境部環境保全課の2018年度「有機フッ素化合物調査結果について(冬季結果)」)

また、沖縄県衛生環境研究所の「衛環研ニュース」第35号には「泡消火剤の成分としてPFOSが使われていました」との記述がある。

米軍普天間基地では、海兵隊が「普通の産廃」と偽って濃縮泡消火剤142トンを産廃処理会社「倉敷環境」に搬入していたことも判明している。ごく最近、12月5日に米軍普天間基地からPFOSを含む泡消火剤が漏出していたことも発覚した。

沖縄県企業局の調査で、発がん性のリスクが指摘される有機フッ素化合物(PFOS、PFOA)が、米軍嘉手納基地近くの湧き水からも高濃度で検出されている。

沖縄にとどまらない。東京・横田基地の排水で多摩川がPFOSに汚染されたことも指摘されている。さかのぼれば、沖縄では米軍による枯葉剤やPCB汚染が大問題になった歴史がある。米軍はやりたい放題なのだ。

PFOSは、日本では2010年から禁止されている。日本の企業等が製造、使用していたことは「確認できない」と沖縄県企業局は言う。つまり、米軍以外にないということだ。

汚染源は嘉手納や普天間の米軍基地だと誰もが思っているのだ。しかし、米軍は認めようとはしない。沖縄の基地内の立ち入り調査を拒否しながらこっそり独自に調査ばした。その内容を安倍政権・日本政府は知っていても公表しない。河野外相(当時)は国会でことし6月、米軍自身が調査した内容を共有していると認めたが、内容は公表しないと答弁した。いったいどこの国の政府だ。

〈米軍嘉手納基地の撤去を求める嘉手納ピースアクションは、米軍による水道水の汚染を許さない〉

沖縄県民よりも米軍を大事にする。これが、日米安保条約・日米軍事同盟・日米安保体制の実態だ。沖縄の新聞には県民の怒りの声が掲載されている。「住民にとって米軍との共存は不可能である」(琉球新報論壇7月28日付)。

米軍基地内への立ち入り調査を求めている沖縄県だが、北谷浄水場から供給される水道水は「安全だ」と繰り返す。北谷浄水場の水道水は、34ng/L(PFOS+PFOA)だ。沖縄には5つの浄水場があるが、他の4浄水場の水道水はいずれも1ng/L以下であり、北谷浄水場からの水道水は比較にならないほど汚染されていることが明かだ。

水道水を管理・供給している沖縄県企業局は「安全」の根拠についてこう言う。「米国環境保護庁(USEPA)の生涯健康勧告値より低いレベルにあることから、水道水の安全性は担保されている」(沖縄県と記者との懇談資料)。米国環境保護庁の生涯健康勧告値は 70ng/L(PFOS + PFOA )と、高い基準値だ。しかし、この基準値は米国内でも信用されていない。

それどころか、有機フッ素化合物はアメリカでも大問題になっていて、揺れに揺れている。

2000年、米最大手化学メーカー「デュポン社」のワシントン工場で大量のPFOAが飲み水を汚染。裁判では、PFOAによる健康被害が認定され、デュポン社は760億円の和解金を支払うことになった。

2016年、アメリカの環境保護庁は飲料水中の生涯健康勧告値を70ng/L(PFOSとPFOAの合計値)と設定。このレベルの水であれば、1日2リットル70年飲み続けても健康に影響しないとした(1ナノグラムは1グラムの10億分の1)。しかし、米国保健福祉省はそれより厳しい基準値(PFOSとPFOAの合計)18ng/Lを提起した。

さらに厳しい基準値を設定する州があらわれている。ミシガン州はPFOSとPFOAの合計17ng/Lと、独自に基準値を設定し、他の週でも厳しい基準値を提案する動きが相次ぐ。15州の知事が有機フッ素化合物の規制を求めて、米議会下院軍事委員会に要請した。住民の健康を守るには当然の対応である。

アメリカで「軍は国民の健康を害してよい」と認められているわけではない。国防総省はこの問題で米軍基地の調査を命じた。だが、日本の米軍基地は対象外にされている。

PFOSはとりわけ乳幼児への影響・被害が心配されている。沖縄でも母親たちは「水の安全を求めるママたちの会」(山本藍代表)を立ち上げて、水道水中のPFOS濃度について、県が独自に基準値を設定するよう求めている。

〈講演会はいつも盛況だ〉

嘉手納ピースアクションは県に対して、北谷浄水場への汚染された源水の取水を直ちに止めること、県民の血中濃度測定と疫学的な健康調査を行うことなどを要求している。
伊波さんは「沖縄の他の浄水場の水道水は飲めるのだから、安全な水源に切り替えればよい。やる気になれば安全な水を供給できる。もともと有機フッ素化合物は自然界にないものだから目標値をゼロにするのは当然だ」と話す。

45万人が飲んではいけない水を飲まされている。事は、命と健康の問題だ。米軍だからといって許されていいはずがない。

〈メモ〉
有機フッ素化合物(PFAS)は人体にとってどれほど危険なものなのか。PFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)、PFOA(パーフルオロオクタン酸)、PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)などがあり、泡消火剤、航空機作動油、めっき液、撥水剤などに使われている。分解されることがほとんどなく、人間の体内や自然の中に長く蓄積し、「永遠の化学物質」と呼ばれている。

残留性有機汚染物質から人の健康と環境を保護することを目的とする「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)」では、2009年から原則禁止されている有害物質だ。

日本では、2010年からPFOSは製造・輸入・使用が原則禁止。経済産業省によればPFOAも早ければ来年、2020年4月から原則禁止される見通しだ。

発がん性が指摘され、幼児と成長期の子どもに対する影響が大きいと言われている。また、北海道大学の岸玲子特別招へい教授らによることし10月の調査では、PFOSの母体の血中濃度が高くなるほど、4歳児までの乳幼児が感染症にかかるリスクが増加することや、女児の低体重出生の傾向が確認された。

ことし5月、NHK「クローズアップ現代+」で、ミシガン州の防水加工の靴メーカーの廃棄物処理場が原因で、飲み水が有機フッ素化合物で汚染されたケースが放映された。その中で、3歳の子の母親は不安を語った。「息子が健康で居続けられるのか、それが一番の心配です」

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