米軍岩国基地は2018年3月、厚木基地からの米空母艦載機移駐が完了し、極東最大級の米軍基地といわれる。沖縄・嘉手納基地の約100機を上回り、米軍機だけで約120機が常駐する。日本政府や山口県、岩国市の米軍再編・米空母艦載機移駐受け入れの過程は、そのまま日本の民主主義のあり方・日米安保体制を問うものとして記録される。
米軍岩国基地を一望できる小高い場所で、米軍岩国基地に精通する田村順玄前岩国市議・リムピース共同代表の説明を聞いた。
「今津川と門前川に挟まれたデルタ地帯、JR山陽本線が通るあの鉄橋から瀬戸内海の沖までが米軍基地だ」と指さしながら田村さんは話してくれた。上流には天下の名勝・錦帯橋が架かる。
市民の墜落事故・騒音の軽減願望を逆用して海を埋め立て、滑走路を1000メートル沖合に移した結果、基地は拡大された。米軍岩国基地は面積790ヘクタール、2440メートルの滑走路を有する。厚木基地から空母艦載機が移駐し、米海軍と米海兵隊が同居する世界でも異例の基地、極東最大級と言われる基地となった。
基地は市の中心部を占め、石油コンビナート等化学工業地帯、住宅密集地に隣接している。
田村前市議はこんな話もしてくれた。もうかなり以前のことだが、市の中心部にあった帝人岩国工場の煙突が、米軍機の飛行の邪魔になるというのですべて切り落とされ、帝人岩国工場の存立を不可能にしたというのだ。「そこのけ、そこのけ米軍基地が通る」というわけだ。
米軍基地の撮影スポットに案内してもらった。休日とあって、大勢のマニアが基地や米軍機を撮影していた。基地内では米空母艦載機が滑走路に向かう姿も見られた。轟音とともにFA18スーパーホーネット戦闘攻撃機が飛び立った。
後で知ったことだが、この日2月11日、岩国基地から沖縄・嘉手納基地に向け飛び立ったFA18スーパーホーネットが事故をおこした。「このままではいつ大惨事が起きてもおかしくはない。・・・飛行訓練は中止すべきだ」と沖縄の新聞は要求した。岩国も不安の中にある。
スーパーホーネットは騒音が大きい。米軍岩国基地に隣接する地域に暮らす女性はこう言った。「まるでメガホンが飛んでいるようなのが米軍機、ガード下にいるようなうるささです。ほんと耐え難い」
騒音は、米空母艦載機の移駐後、飛躍的に増大した。去年の広島高裁判決も、岩国基地の米軍機の爆音が受忍限度を超える違法なものであることを認め、国に対し7億3540万円の損害賠償を命じている。
厚木基地を抱える神奈川県綾瀬市の基地対策課は言った。「本拠地が岩国に移っても、空母艦載機は厚木基地に飛んでくる。100デシベル級の騒音は増えている」。基地がなくならない限り、住民は被害を受け続ける。
岩国の米軍機は「手放し操縦」など、規則違反飛行が横行している。1948年~2019年の間に、市民の死亡を含む米軍機の墜落事故は34件も発生し、米軍人らによる犯罪は多発している。米軍基地は命と人権を脅かす元凶にほかならない。
医療センターから愛宕神社へと向かう坂道を上ったところに、「愛宕神社前広場」はあった。
2月11日は、「愛宕山を守る会」の260回目の座り込みの日だ。毎月1日と11日は「愛宕山を守る会」が、21日は「愛宕山を守る市民連絡協議会」がそれぞれ座り込みを主催して10年目を迎えた。「持続する志」である。広場にはすでに「米軍住宅はいりません」という幟が立ち、広場の金網にはいくつもの檄文が貼られていた。
午前10時、「愛宕山を守る会」世話人代表の岡村寛さんの司会・進行で「愛宕山見守りの集い」という座り込みがはじまった。この日は参加者30人。思い思いの発言が続いた。
福田良彦岩国市長の沖縄出張に対し、公金支出は違法だと返還を求める発言があった。2018年9月に市長が公費で沖縄出張。ところが辺野古新基地建設に賛成する宜野湾市長選候補者を応援演説していたことが発覚した。公金支出は違法だと、返還を求める住民訴訟も起きている。
米軍再編交付金が市政の柱になっていることへの批判も相次ぎ、そこからの自立を訴える声もあった。沖縄の辺戸岬にある祖国復帰闘争碑を見てきて報告した人もいた。
この日の集会には、田村順玄前岩国市議、本田博利元愛媛大学教授、松田一志「住民投票を力にする会」代表・共産党岩国市委員長、井原勝介元岩国市長らも参加していた。座り込みは、多くの市民の共同の場、悪政に対する抵抗運動の場となっている。
〽子どものために 孫のために 世界のために 安全安心の未来残す・・・。シンボル歌「守ろう愛宕山」を歌ってこの日の「集い」は終わった。「守る会」の座り込みは、辺野古の「座り込み闘争に通じるものがある」と本田元愛媛大学教授は著書『基地イワクニの行政法問題』(成文堂)で指摘している。私もまったく同感だ。
「愛宕山を守る会」結成の動機にもなった米軍住宅建設問題は、米空母艦載機受け入れのキーポイントだった。艦載機とともに、米兵ら関係者3800人が移住することになる。それは米軍住宅建設のために住民をだまして土地を取り上げる歴史となる。
下の写真(パンフレット)を見てほしい。
「新しいまちづくり・愛宕山」という表題の山口県住宅供給公社のパンフレットだ。「活力あふれる水と緑の人間都市いわくに」とある。明るい陽光を背に、談笑する3世代の家族。魅力的な開発構想と誰もが思ったに違いない。住民は住宅供給公社に土地を売った。
ところが、山口県は赤字が見込まれるとの理屈で事業を中止。住民の土地を防衛省に転売したのである。そして住宅供給公社を解散、証拠を消し去ってしまった。
できあがった愛宕山の米軍住宅は、ゲートの入り口に「無許可立入禁止」の看板。普通の市民は立ち入ることはできない。「治外法権」の住宅地だ。住宅は広く、超豪華につくられている。日本人の住宅との差はとてつもなく大きい。
防衛省中国四国防衛局によれば、米軍住宅は44.8ヘクタールの広大な敷地(駐車場、芝地などを含む)に262戸建設された。1戸あたりの敷地面積は、1700平方メートル。けた外れの広さだ。
住宅はすべて2階建てで、4種類ある。1棟2戸建ての場合、3LDKと3LDK、4LDKと4LDKの組み合わせで2種。1棟1戸建ては、3LDKと4LDKの2種。米軍住宅1戸の床面積は140~160平方メートル。どの米軍住宅も、浴室2つ、トイレ3つが備えられている。建設費は米軍住宅1戸あたり6900~8600万円(土地代は別)。
自分の住宅と比べてみて、その格差に驚愕せざるを得ない。
住宅建設費、土地購入費などのほか、日常的に使用する電気、ガス、上下水道なども日本側の負担だ。巨額の費用は、「思いやり予算」という名目で、日本国民の税金で払われる。こうまでしなければならない日米同盟関係とは何なのか。
豪華な米軍住宅は山口県議会でも問題視された。「その広さと豪華さに改めて驚いた」と、ある県会議員は批判し、質問した。同じ小中高校なのに日米で「なぜ、これほどに違うのかというのが大変不思議」「日本の中の子供たちが学んでいる小中学校、まだ耐震化もできていない。エアコンはもちろんついていないし、トイレも洋式化が進んでいない」「日本の税金で米軍の中の子供たちの立派な学校がつくられている」との追及もあった。
民意をないがしろにされることでは、名護市民も岩国市民も同様である。
2006年3月12日に米空母艦載機の岩国基地への移駐案受け入れの賛否を問う住民投票が行われた。空母艦載機の受け入れは岩国の将来を左右する。投票結果は「受け入れ反対」が4万3千人を超え、有効投票総数の89・0%を占めた。有権者全体の過半数をこえる市民が反対した。岩国市民はきっぱりと「米空母艦載機NO!」の意志を表明したにもかかわらず政府は強行した。
政府は市庁舎建設の補助金35億円をカットする一方、岩国空港の開設を米空母艦載機の移駐の見返りとするなど、手段を選ばなかった。
「基地との共存」(福田市長)を掲げる岩国市は基地の拡大・強化で繁栄したのか。2006年、合併で岩国市の人口は15万人余だったが、いまは13万人。人口減少が端的に示していることは、繁栄とは逆のことではないのか。
米空母艦載機の移駐も、米軍住宅建設・住民だましの土地取り上げも国家権力に押し切られてしまったが、「愛宕山を守る会」世話人代表の岡村さんはこう言った。
「私たち『見守りの集い』を悪く言う市民には出会ったことがない。それどころか『よくやってくれている』、『尊敬しています』と言われる。市民は米軍基地に賛成しているわけじゃない。『見守りの集い』は孤立していない」
沖縄闘争の伴走者といわれた故・新崎盛暉元沖縄大学学長は筆者にこう話してくれた。辺野古新基地建設に反対する「沖縄民衆の運動が新しい時代を切り拓く」。市民の抵抗運動こそ、社会変革の原動力なのだ。
がんばれ「愛宕山を守る会」!! がんばれ岩国市民!!