G7広島サミットの最大の特徴は、核兵器禁止条約が国際条約として発効した後に、被爆地広島で開催されたことにある。被爆者と被爆地広島の悲願は核兵器の廃絶だ。この悲願に岸田首相とG7広島サミットはどうこたえたのか。
G7広島サミットは首脳らが平和記念資料館を訪れて始まった。しかし、首脳らが平和記念資料館の何を見て、どう感じたかは非公開とされた。これではG7各国と世界の人々の目をふさいだのも同然だ。非公開は核保有国アメリカの意向によるという。
G7広島サミットは「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」、「G7広島首脳コミュニケ」などを発表した。「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」、「G7広島首脳コミュニケ」の2つの文書には共通した文言=「核兵器不拡散条約(NPT)は、国際的な核不拡散体制の礎石」とあるが、核兵器禁止条約はどこを探してもない。まるで無視している。
核兵器禁止条約は国連加盟国122カ国という圧倒的多数の賛成により採択され、その後国際条約として発効した。核兵器禁止条約は核兵器を「非人道兵器」として、開発、保有、使用、威嚇などを禁止している。これに背をむけているのが核保有国とその同盟国なのだ。G7メンバー国と重なる。
他方、核兵器不拡散条約(NPT)はロシア、アメリカ、中国、イギリス、フランスの5か国を核兵器保有国と認める一方、構成メンバーのほとんどの国は核兵器を保有しない不平等条約である。
しかもロシアは、核保有国という特権的立場を利用して核で世界を脅している。ロシアをそのままにしてNPT体制を維持しようというのであろうか、G7諸国は。
G7広島サミットは核兵器禁止条約にふれないばかりか、「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」には「我々の安全保障政策は、核兵器は、それが存在する限りにおいて、防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、並びに戦争及び威圧を防止すべきとの理解に基づいている」と明記する。核抑止力、核兵器を肯定しているのだ。
核が安全保障に役立つとは、いったいどういうつもりなのか。核抑止力は、相手の攻撃に対し、核兵器で報復することで攻撃を思いとどまらせようというものだ。これこそ核廃絶と敵対する思想だ。
昨年12月、岸田政権が定めた安保3文書の1つ、日本の安全保障政策の最上位に位置する国家安全保障戦略はアメリカの核に依拠していることを明言している。
しかし岸田自公政権が頼りにするアメリカの核は、ロシアのウクライナ侵略にアメリカがどう対応しているかをみれば明らかになる。
プーチン・ロシアのウクライナ侵略は、プーチンが核兵器で全世界を威嚇し、アメリカやNATO(北大西洋条約機構)諸国をひるませてから、ウクライナを攻撃したことにある。その後もたびたび核の威嚇を繰り返す。
核で威嚇するロシアにアメリカはどう対応したか。アメリカに戦火が及ばないようウクライナを支援する武器はロシア本土に届かないものに限定した。G7広島サミットでのバイデン大統領とゼレンスキー大統領との会談でNATO諸国からウクライナへの米F16戦闘機の提供を認めたが、アメリカからの直接提供ではない。戦火がアメリカ本国に及ばないよう計算しているのだ。
岸田首相らは別にして、核兵器は非人道的兵器という理解は世界の多くの人々が共有している。そんな核兵器を使用すれば国際的な非難は必至だ。まして日本のためにアメリカが核兵器を使用するというのは幻想だ。
安倍元首相に重用され自衛隊トップの統合幕僚長を長期間務めた河野克俊・元統合幕僚長はこう語っている。「米国が核を使ってでも日本を守るようにするには、米国にとっての日本の価値を高めないといけない」(朝日新聞2019年5月17日付)。アメリカが確実に日本のために核兵器を使用するのであれば、こんな発言はしないだろう。
「アメリカにとっての日本の価値を高める」ために安倍元首相は集団的自衛権の行使を、岸田首相は敵基地攻撃能力の保有を打ち出した。
岸田首相はきわめて欺瞞に満ちた人物だ。日本国民よりもアメリカを大事にする。敵基地攻撃能力の保有を打ち出したがそのためのGDP比2%の予算はトランプ前大統領らアメリカが強く要求してきたものだ。
招待国としてG7広島サミットに参加したインドネシアのジョコ大統領は「核兵器の破壊を求めたい」と主張する(朝日新聞5月19日)。
被爆者と被爆地広島はG7広島サミットをどのように評価しているのだろう。
オンライン記者会見を開いた日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の事務局次長の浜住治郎さん(77)は「核兵器は人類と共存できない絶対悪の兵器で、廃絶は今すぐやるべき最優先課題だ」と怒りをあらわにした。
被爆者として原爆資料館の館長を務めた原田浩さん(83)は「核抑止を認めるものが広島から発信されるのはいたたまれない」と語る。「核政策を知りたい広島若者有権者の会」(カクワカ広島)の共同代表田中美穂さん(28)は「核廃絶への道筋を示すべきだ」と語った。(沖縄タイムス5月21日)
被爆者のサーロー節子さん(91)は「G7広島サミットは大きな失敗だった。首脳たちの声明からは体温や脈拍を感じなかった」と核兵器肯定の立場を批判した(共同通信、5月21日)。
これらが核を肯定する岸田首相とG7広島サミットに対する被爆者と広島の評価だ。