沖縄のいま

星英雄:「ちゅら水(きれいな水)」を返せ! 沖縄・金武町の住民の叫び

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沖縄では米軍による発がん性物質・有機フッ素化合物(PFAS)の垂れ流しが、県民にとって一大脅威となっている。これに抗して、住民が「ちゅら水」を求める運動を始めている。12月上旬、沖縄県金武町を訪れた。

発生源は米軍基地内

キャンプ・ハンセンなど米軍基地が町の約6割を占拠する金武(きん)町で、米軍の有機フッ素化合物によって町の飲料水が汚染されていることが大きな問題となったのはことし九月だった。崎浜秀幸町会議員が、未公表の資料を独自に入手して町長らにただした。資料は「金武町内における河川状況調査業務報告書」。金武町が一般財団法人沖縄県環境科学センターに委託した河川の水質調査の結果報告書である。

報告書は「主なPFOSの発生源は基地内にあると考えられる」と明記している。金武町も沖縄県も、基地内への立ち入り調査を求めているが、米軍はいまだに許可しない。町長は公表の遅れを町民に謝罪し、地下水からの取水を停止した。

金武町の2カ所の水道水から、有機フッ素化合物が検出されたことも、明らかになっていた。有機フッ素化合物のなかでも、最も毒性が強いといわれるPFOS(ピーホス)とPFOA(ピーホア)が検出されたのだ。それは、日本の暫定基準値(PFOS+PFOA=50ng/l)をはるかにオーバーする数値だった。金武町は地下水をくみ上げて水道水として利用していた。米軍基地であるキャンプ・ハンセンから、有機フッ素化合物を含む泡消火剤が地下水に浸透するには2~30年かかると見られている。

つまり、2~30年以上前から、米軍は有機フッ素化合物を垂れ流していたことになる。

金武町や沖縄県は基地内への立ち入り調査を求めているが、米軍は拒んでいる。米軍の犯罪が決定的になることを恐れているに違いない。

水道水から基準値を超えるPFASが検出された「いしじゃゆんたく市場」に行ってみた。

〈いしじゃゆんたく市場の外観〉

〈いしじゃゆんたく市場にはさまざまな商品が並んでいる〉

「いしじゃゆんたく市場」には、地元農家の季節感あふれる農産物が並ぶ。いまはトウガンやタイモなどが格安の値段で並んでいる。少し中に入ると、日用雑貨や輸入品もある。土曜、日曜は観光客でにぎわうという「いしじゃゆんたく市場」だが、新型コロナウイルスの影響で客は減ったという。

いしじゃゆんたく市場に店を出す農民は、「農作物の栽培はほかの水を使っている」と話すが、不安も募る。この問題で、悪影響を受けなければよいが…、と思う。

「いしじゃゆんたく市場」の隣で営業するパーラー「いそ」は、いまも「料理には(汚染された水道水とは)別の水を使っている」と話す。常連客たちは米軍に対する不安と怒りを口にした。

ちゅら水を求めて

水道水から発がん性物質が検出された事態は、「水道の水は安全だ」と思い込んでいた町民を不安に陥れた。ことは命と健康の問題だ。PFOSとPFOAは幼い子どもたちに有害なことが世界的にも明らかになっている。

「金武町ちゅら水会」は、有機フッ素化合物で汚染された水にたいする不安と怒りの中から生まれた。「ちゅら」とは「きれい」「美しい」という意味の沖縄の言葉だ。きれいな水を返せ! 水は命の源だ。

「金武町ちゅら水会」は11月21日に、有機フッ素化合物について語り合う会を開いた。およそ100人の参加者からは「金武町の水は飲んでも大丈夫なのか」「子どもたちの健康への影響が心配だ」という不安の声が相次いだ。その翌日、「金武町ちゅら水会」は、仲間一町長に町民の血液検査を実施するよう求める要請書を手渡した。

とはいえ、血液検査実現へのハードルは高い。何よりも予算の壁がある。町が背負うには額が大きすぎるという。それでも、町民の命と健康の問題だから、何とか実現したいというのが「金武町ちゅら水会」の思いだ。

金武町は「同調圧力が強い」という声もある。住民の命と健康の問題でも、意思表示しにくい雰囲気がある。「いままで、飲んできても大丈夫だったから・・・」という人たちもいる。

しかし、有機フッ素化合物は人間の体内に蓄積され、子どもたちに受け継がれていく。小学生の長男ら4人の子どもを持つ30代の子育て世代の女性はこう話す。「血液検査で、いま体内にどれくらいPFOS・PFOAが蓄積されているのかを知りたい。みんなが自分の健康状態を知って、考えて、理解して、そして行動することが大切だ」。

血液検査の早急な実施を求める「金武町ちゅら水会」共同代表の仲村千恵子さんはこう訴える。「特に若いお母さん方は不安に思っている。この問題は自分たちの健康の問題、そして子どもたちの将来の問題でもあると思う。まだそれほど関心をもてない人たちに少しでも関心をもってもらえるような運動にしたい。不安を感じる町民は、連絡してほしい」

米軍は金武町の水ではなく、安全といわれる県企業局の水を早くから利用している。米軍は自分たちの身を「安全地帯」におきながら、有機フッ素化合物を垂れ流す。金武町民、沖縄県民、日本国民に被害を与え続けている。許しがたい。

有機フッ素化合物(PFAS)は人体にとってどれほど危険なものなのか。PFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)、PFOA(パーフルオロオクタン酸)、PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)など多くの種類がある。

泡消火剤、航空機作動油、めっき液、撥水剤などに使われている。分解されることがほとんどなく、人間の体内や自然の中に長く蓄積し、「永遠の化学物質(フォーエバー・ケミカル)」と呼ばれている。

残留性有機汚染物質から人の健康と環境を保護することを目的とする「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)」では、2009年から原則禁止されている有害物質だ。

日本では、2010年からPFOSは製造・輸入・使用が原則禁止となっている。

発がん性が指摘され、幼児と成長期の子どもに対する影響が大きいと言われている。1ng(ナノグラム)は10億分の1グラム。きわめて微量の有機フッ素化合物が人体に多大な悪影響を与える。

崎浜町議の案内で、キャンプ・ハンセンや、汚染された排水溝などを見て回った。

〈排水溝の上流に米軍基地キャンプ・ハンセンがある〉

汚染水はキャンプ・ハンセンから排水溝へ。排水溝から海に注ぐ。最初に汚染が問題となった海をみて、排水溝へと向かった。

金網の向こうに、排水溝はあった。金網の上から写真を撮った。

キャンプ・ハンセンを一望した。とにかく広い。金武町や他の市、村にまたがるキャンプ・ハンセンの総面積は4978万7000平方メートル。金武町に所在するだけでも2068万1000平方メートル。キャンプ・ハンセンだけでも金武町面積の半分以上を占拠しているのだ。

キャンプ・ハンセンは米軍の演習場のため、実弾射撃演習による原野火災や基地外への被弾などに町民はおびえなければならない。日本政府はいつまで米軍に、占拠させておくのだろう。

日本は米軍天国

「沖縄ではこの50年間、米軍が有機フッ素化合物を垂れ流していると思う」。崎浜町議は言った。米軍は泡消火剤を50年間使用してきた歴史があるのだ。
キャンプ・ハンセンが金武町の水を汚染した以外にも、米軍の泡消火剤が沖縄県民の命と健康を脅かしている例は多数ある。県民の3分の1が利用する北谷浄水場を嘉手納基地が汚染、米軍普天間基地から有機フッ素化合物を含む汚染水を公共下水道に放出した悪質な事件、うるま市昆布の米陸軍貯油施設の汚染水から基準値の1600倍に上る有機フッ素化合物検出された事件、等々。

〈実弾演習がおこなわれる広大なキャンプ・ハンセン〉

有機フッ素化合物以外にも米軍によって命と健康の危機がもたらされている。新型コロナウイルス感染症がその1例だ。キャンプ・ハンセンなどでクラスターが発生しているが、米兵はPCR検査を受けていない。そもそも在日米軍は、日本の出入国管理の外にある。米国の要人が、米軍横田基地(東京)経由で、日本のチェックを受けずに出入りしていることはよく知られている。日米安保条約と日米地位協定が米軍の横暴を許している。日本は世界に例を見ない「米軍天国」となっているのだ。

崎浜町議は言う。「イタイイタイ病などを見てもわかるように、日本には薬物被害を補償する法がない。金武町だけでなく、他の市町村や県もひとつになって、国を動かすようにしたいが、日米安保条約をなくすほうが近道かも知れない」

有機フッ素化合物に対する世界的な規制は進行しつつあるが、日本はどうか。

アメリカでは特に、環境保護庁(EPA)長官が、「国家的危機」と発言して以来、米軍への追及が厳しい。米下院は、国防権限法案を可決したが、それには泡消火剤の廃棄を禁じる条項などが盛り込まれたという。(沖縄タイムス12月10日付)。

アメリカでできないことを米軍は、日本ではやりたい放題なのだ。常日頃、「国民の生命と財産を守る」という政府・自民党だが、米軍の無軌道ぶりに手も足も出ない。これが、日米安保体制の実態だ。

全国の皆さん、金武町・沖縄の現状を、全国に発信してください。

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