沖縄のいま

星英雄:在日米軍の発がん性物質(有機フッ素化合物)垂れ流しを許すな

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皆さん 今沖縄で、何が起きているか、ご存知ですか。米軍が発がん性物質を垂れ流し、沖縄県民は不安と怒りの日々を過ごしている。日米安保条約と日米地位協定に守られた米軍は、日本ではやりたい放題だ。アメリカでは米軍への追及がはじまっているというのに・・・。

それは突然だった。8月26日午前9時半ごろ、米軍(海兵隊)は普天間基地に保管していた有機フッ素化合物(PFAS)の汚染水を公共下水道に放出した。沖縄県や地元の宜野湾市にはその直前に、「放出の知らせ」があっただけだ。沖縄県民を危険にさらすと知っていながら、汚染水を放出したのだ。

汚染水は「安全」と強弁する米軍だったが、米軍普天間基地を抱える宜野湾市の測定では、日本の暫定指針値(PFOSとPFOAの合計値が1リットルあたり50ナノグラム)を大きく上回る670ナノグラム、13・4倍もの濃度だった。発がん性物質を公共下水道に放出しても、米軍なら許されるのか。米軍が何をやっても、日本国民は、沖縄県民は泣き寝入りをしなけければならないのか。

有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)は自然界でほとんど分解されないので、「永遠の化学物質」と呼ばれている。人間をはじめ生物の体内に蓄積される。PFOS(ピーフォス=パーフルオロオクタンスルホン酸)、PFOA(ピーフォア=パーフルオロオクタン酸)は毒性が強いことで知られる。発がん性が指摘され、幼児と成長期の子どもに対する影響が大きいと言われている。

米軍が使う泡消火剤に有機フッ素化合物は含まれている。しかし、有機フッ素化合物は、廃絶に向けて国際的に規制されている。日本国内でも製造・使用が原則禁止されている。

それなのに、米軍は一方的に発がん性物質を放出した。下水道に流せば海が汚染される。魚介類に発がん性物質が蓄積される。それを人間が食べる・・・。

沖縄の人々は「私たちの命をないがしろにするのか」「日本は米国の属国なのか」などと声をあげた。すると、日本政府が汚染水を引き取ることにした。そのために、国民の税金約9200万円をつかうというのだ。米軍の不始末を国民の税金で尻拭いするとは、本末転倒ではないか。

〈有機フッ素化合物を公共下水道に放出した、と1面トップで報じる8月27日付の琉球新報〉

〈8月28日付も1面トップで報じた沖縄タイムス〉

この問題を沖縄の琉球新報と沖縄タイムスは8月27日付け1面トップで報道した。「PFAS汚染水放出」「米海兵隊、公共下水道に」(新報)と。

ところが、東京で発行する新聞は、毎日新聞が社会面で「普天間の汚染水放出」と報じたのが最大の扱いで、朝日新聞は第2社会面で、その他の読売新聞、日本経済新聞、産経新聞、東京新聞は報道しなかった。「自民党総裁選」には、ふんだんにスペースを割きながら、沖縄県民・日本国民が直面する命と健康の問題を報道しないとは、新聞の役割放棄ではないか。

汚染の広がりは沖縄全県的だ。金武町では昨年、地下水源から有機フッ素化合物が高濃度で検出された。ところが米軍は「基地内の発生源を特定することはできなかった」として責任を認めようとはしない。金武町や沖縄県の立ち入り調査も許可しない。金武町は地下水源からの取水を全て止める方向性を打ち出した。キャンプ・ハンセンなど米軍基地は金武町の全面積の約60%を占拠している。

実は沖縄では、米軍の有機フッ素化合物の垂れ流しは大問題になっている。飲み水を供給する北谷浄水場で、有機フッ素化合物が高濃度で検出されたのは2年前。北谷浄水場は沖縄県民の約3分の1が利用する水道水の供給源だ。それが発がん性物質で汚染されたのだ。米軍基地の普天間、嘉手納などから泡消火剤を垂れ流したことが原因だ。人々は「毒の入った水は飲めるわけがない」と米軍に強く抗議し、沖縄県は立ち入り調査を求めたが、米軍は拒否した。日本人の命や健康は、米軍にとってどうでもいいことなのか。

日本人の命をないがしろにして、米軍基地・在日米軍はある。米軍は人間の命と健康に対する敵対者としてわれわれの眼前にある。

日米安保条約第6条に基づく日米地位協定には環境条項がない。在日米軍は基地を日本に返還した場合、原状回復や補償義務を負わないことになっている。

その地位協定を「環境面から補足する」という触れ込みで、鳴り物入りで登場したのが環境補足協定だった。

当時の岸田外相(現首相)とアメリカの国防長官が署名して2015年9月に発効した「環境補足協定」について、安倍首相(当時)は「地位協定は指一本触れられなかった」が、「従来の運用改善とは異なり、国際約束の形で得た成果だ」と誇って見せた。

しかし、発がん性物質を垂れ流した今回の事件があっても、沖縄県が要求する基地内への立ち入り調査は実現しない。米軍の意向次第であることは、「環境補足協定」の前も後も変わらない。「環境補足協定」発効後、岸田氏は国会で「必要な立ち入りがタイムリーに実施されることが重要である」と答弁した。このままでは、虚偽答弁になる。責任を果たしてもらいたい。

米軍が発がん性物質を下水道に放出した今回の重大事件で、不可解なことがある。なぜ米軍の傍若無人な振る舞いの尻拭いを日本政府がしなければならないのか。

その理由を防衛省に質問した。「地域住民の懸念を払拭するために防衛省が緊急的に暫定措置をとることが必要」という回答だった。しかし「地域住民の懸念を払拭」も、「暫定措置」も、米軍に求められることではあっても、日本が肩代わりする理由にはならない。

実は、「環境補足協定」が発効する1年前、「日米共同報道発表」があった。安倍首相が「実質合意を達成」したと国会で答弁し、大々的に打ち上げた「発表」だ。そこには「環境基準、立入り、財政措置、情報共有」の4項目が明記されていた。ところが1年後、岸田外相(現首相)が署名して発効した「日米地位協定の環境補足協定」からは「財政措置」が消えていた。

「日米共同報道発表」には、「財政措置」の内容として「日本政府は,環境に配慮した施設を米軍に提供するとともに,環境に配慮した種々の事業及び活動の費用を支払うために資金を提供する。」と明記されていたのだ。

こうまでして、米軍を日本国内においておきたいとは、なんという「従属」ぶりだろう。さすがに、正式発効文書「環境補足協定」からは消去せざるを得なかったにしても、なんらかの形で「生きている」可能性がある。

「環境補足協定」が今回の税金投入とどのようなかかわりがあるのか、沖縄県の立ち入り調査が認められない点についても、岸田首相は説明する責任がある。

在日米軍の有機フッ素化合物による汚染は沖縄に限らない。2019年には東京都の調査で、米軍横田基地周辺の井戸から高濃度の有機フッ素化合物が検出された。

環境省の2020年度の調査では、「泡消火剤を保有する米軍関係施設」など「143地点のうち、12都府県の21地点において水環境の暫定的な目標値(PFOS及びPFOAの合算値で50ng/L)の超過が確認された」と指摘している。
米軍横須賀基地を抱える神奈川県はホームページで有機フッ素化合物による汚染について注意を喚起している。環境省の調査で「綾瀬市内の地下水1地点」が基準値を超えて汚染されいることも明らかにした。綾瀬市には米軍厚木基地がある。

米軍基地のあるところ、この問題は全国に広がっている。専門家の調査はあまり知られていないが、米軍基地のある日本のあちこちで調査が行われている。命と健康を脅かす有機フッ素化合物の汚染問題は、他人事ではない。

次第に、世界の規制は厳しくなってきている。

アメリカでは2018年、環境保護庁(EPA)長官が、「国家的危機」と発言した。そして今、米軍への追及が始まっている。連邦議会では上院議員が「国防長官に汚染浄化の責任を義務化する法案を提出」。上院議員は「米軍が長期にわたり泡消火剤を使用してきた結果、基地周辺で汚染が広がり、住民の健康を危険にさらしている」と米軍を告発している(沖縄タイムス10月14日付)。

アメリカでできないことを米軍は、日本ではやりたい放題なのだ。常日頃、「国民の生命と財産を守る」という政府・自民党だが、米軍の無軌道ぶりに手も足も出ない。これが、日米安保体制の実態だ。

国民の命や健康を犠牲にするものが安全保障政策なのか。正面から向き合って考えたい。米軍は横暴に振る舞い、事実を隠蔽し、日本政府は米軍の責任を追求できない。

日本の主権が問われている。日米安保体制が問われている。

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