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星英雄:差別のない共に生きるまちへ 川崎「市民ネットワーク」が目指すもの

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ヘイトスピーチに刑事罰を科す全国で初の禁止条例をつくったのが川崎市だ。だが、条例制定の主役を担った市民らは、解決すべき課題はまだまだあることを痛感している。「ヘイトスピーチを許さないかわさき市民ネットワーク」はヘイトスピーチを根絶し、「共に生きる」川崎市を目指している。

市民らが怒る出来事が新年早々あった。

「在日韓国朝鮮人をこの世から抹殺しよう」と書かれた年賀状が、「川崎市ふれあい館」に届いた。さらに、川崎市(職員)に、「ふれあい館」の爆破や在日コリアンに危害を加えるという葉書が届いていたことも明らかになった。

在日コリアンとコリアンにルーツを持つ人々への露骨、卑劣な脅しである。

ヘイトスピーチ禁止条例の正式名称は「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」。川崎市議会全会派の賛成で成立した。「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」を禁止し、外国にルーツがある市民らに対し、差別的な言動を繰り返すと最高50万円の罰金が科されるというものだ。

<川崎市ふれあい館>

日本社会でもヘイトスピーチを禁止したいという思いは広がっていた。2016年には国の法律(ヘイトスピーチ解消法)も制定された。しかし、罰則がない「理念法」だった。

それに比べ、昨年12月に成立した罰則つきの川崎市の条例は「画期的」だったといえる。だが、インターネット上のヘイト行為については対象外、さらに罰則は7月から実施、とされた。ふれあい館への「年賀状」は、その間隙をつくような卑劣な行為だ。

2月4日、「ヘイトスピーチを許さないかわさき市民ネットワーク」は集会を開き、川崎市長への「要請書」案も議論した。条例の条文解釈を明確にするのが目的だ。

「非正規滞在者に対する差別的言動も許されないことを明記」することなど、要請は10項目に上った。

「ふれあい館」脅迫に対する対応の遅さも問題になり、市長への厳しい批判が吹き出た。

<2月4日「ヘイトスピーチにNO!を」の集会>

「川崎市はことの重大性をわかっていない」

「川崎市の施設に対する脅迫に対し、とんでもないことだとすぐ表明するのが筋だろう」

運動の中心的役割を担ってきた、社会福祉法人青丘社事務局長の三浦知人さんはこれまでを振り返って言う。「商店街や町内会のひとたち、市民のなかに、あんなひどいことを許すのかという素朴な感情・意識があった。川崎市が川崎市民を守らないでどうするんだ、と。市民を結ぶ、結び目の役割をコリアンルーツの人々が担った。市民社会が1つになって、ヘイトスピーチはいらないという社会をつくっていくのが、私たちの立場です」

この過程で、「ヘイトスピーチ被害の実態」が実際にあることが大きく「もの」を言った。

在特会などによるヘイトデモは、それまで川崎駅周辺だった。ところが2015年11月、「日本浄化デモ」と称してコリアンの集住する桜本地区をねらってきた。

ヘイトデモのきっかけとされたのは、在日1世のハルモニ(おばあさん)たちの素朴なデモだった。安保関連法案に戦争のにおいを感じ取ったハルモニたちが、「平和が一番、平和を守れ」「若者守れ、子供を守れ」と声をあげた。

二度と戦争はごめんだ、という当然の思いに対する在特会の卑劣な応答がヘイトデモだったのだ。

2度目は、2016年1月。在日2世、3世らの若者を中心にダイインの形で抵抗し、桜本の入り口でヘイトデモを阻止した。

〈2016年1月31日、ヘイトスピーチデモの侵入を、若者たちが水門通りの路上で阻止した=藤田観龍『写真報道50年の軌跡』(本の泉社)から〉

ヘイトデモに対する行政・警察の対応は市民を驚愕させた。行政は取り締まる根拠条例がないといい、警察はヘイトデモこそが合法的な手続きを行ったという扱いをして、ヘイトデモを守ったのだ。

在日3世の崔江以子(チェカンイジャ)さんは2016年3月、参議院法務委員会に参考人として出席。「ヘイトスピーチの被害を語ると、反日朝鮮人と誹謗中傷を受けます」と前置きして訴えた。

「私たちの町、桜本は、日本人も在日もフィリピン人も日人も、誰もが違いを尊重し合い、多様性を豊かさとして誇り、共に生きてきた町です。その共に生きる人々の暮らしの場に、その思いを土足で踏みにじるかのようにあのヘイトデモが行われました」。

「ハルモニ方は、何で子や孫の代にまでなって帰れと言われなければならないのだと傷つき、悲しみの涙を流し、ヘイトスピーチをする大人の人たちに、外国人も日本人も仲よく一緒に暮らしていることを話せば分かってくれるはずだと信じて沿道に立った私の中学生の子供は、余りのひどい状況に強いショックを受けました」

崔さんの長男は市長に手紙を出した。「朝鮮人は敵、敵はぶち殺せ、朝鮮人は出ていけとひどい言葉を大人が言っていました、もしこんなことを学校で誰かが言ったら、学校の先生はそんなひどいことを言ってはいけないときっと注意をする、表現の自由だから尊重しますなんて絶対に言わない、市長さんはどう考えますか、助けてください、ルールを作ってヘイトデモが来ないようにしてください」

<桜本には早咲きの桜が咲いていた>

川崎市は日本が朝鮮を植民地支配していた時代から、コリアンの集住地域を形成してきた。桜本もその1つだ。植民地支配への反省こそ、求められている。

日本国憲法の中核思想は個人の尊厳の尊重である。国籍やルーツにかかわらず誰もがお互いの人権や人間としての尊厳を認め合うことだ。

「市民ネットワーク」の4日の集会は、比較的若い人たちの参加が目についた。日本社会の現実は、共生社会こそめざすべき社会であることを教えてくれる。「市民ネットワーク」の運動はその先駆けとなるのではないだろうか。

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